6年生後半の各塾の模試スケジュールを見ていたら、いくつか気が付いたことがあります。
模試を受ける際に、役立つヒントがあると思います。
そもそもその模試は何を目的としているのか?
おそらく、模試を申し込むときにこんなことは考えたことがないと思います。
「来月の日曜、〇〇塾の合格判定模試があるから受けてみよう。どれくらの判定がでるかしら?」
そうして申し込むのが普通です。
しかし、模試というものは、営利企業である塾が、企業戦略の一環として実施しているのです。
そこには深い闇が口を開けているのです。
(少し大げさすぎますね)
模試を実施する側、つまり塾サイドから考えてみましょう。
模試の実施には多大な労力・コストがかかります。
(1)問題作成の手間
中学校の入試問題を学校の先生方が作成する場合、1本~4本程度を1年間に作成します。それはそれで大変な手間なのですが、少なくとも問題のスタイルは変えなくてよい、つまりある程度のフォーマットに即した作成となります。校正の時間もたっぷりととれます。
しかし、塾が作成する問題の本数はそんなものではありません。
6年生だけに絞ったとしても、「基本的な学力測定の模試」「発展的な学力測定の模試」「学校別に特化した模試」などを年間で数十本作製しなくてはなりません。
学校別に特化した模試をつくるためには、その学校の入試問題の徹底的な研究も欠かせません。
しかも、残念ながら、こうした模試の作成は誰でもできるというわけではありません。授業力に長けた教師と、模試作成に長けた教師は別なのです(たまに両方を兼ね備えた凄い先生もいますが)。
もちろん、問題作成者は1名ではありません。チーム体制で臨むのが普通でしょう。
さらに、国語の問題なら、作者に著作権料を支払う必要があります。
社会の問題なら、金閣の写真1枚使うのにも、写真使用料が発生します。
もちろん出来上がった問題は、印刷・製本に費用を使います。
もうおわかりのように、塾にとって、模試の作成には膨大なマンパワー=多大なコストが必要となるのです。
(2)模試運営の手間
模試を受けにいったときに気が付きませんでしたか?
駅前から受験会場までの要所要所には塾の旗をもった誘導の人が立っています。
受験会場の入り口には、案内のスタッフが何人も待機しています。
試験会場内には複数名の試験監督が立っています。
全て、塾がお金を払って雇った人間(社員もそれ以外も)です。
このように、模試当日の運営にも多くの人員を必要とするのです。
さらに、場所の問題があります。
塾の教室数だけで模試受験者を全て収容できるはずはないですね。
当然、外部の会場を借りなくてはなりません。そこには会場を借りるための費用が発生します。
よく私立中学校の教室を会場として模試が実施されていますが、あれももちろん無料のわけはないのです。塾から学校へ、きちんと会場費を支払っています。
(3)採点・データ作成の手間
マークシート式でない限り、採点にも多大な手間がかかります。しかも短時間での採点となりますので、これもマンパワーで乗り切るほかないのです。たとえ記号の採点だとしても、採点にはある程度のスキルが必要です。まして記述問題の採点にはかなりのスキルが必要となるのです。これらの人間を採点のために揃えるのですね。
そして採点した答案のデータ化にもコストがかかっています。
数百台のPCが並ぶ採点ルームに専用の大型サーバー、そんな施設が普通です。採点・成績データ出力のためのシステム構築にも、けた違いの費用がかかっているのです。
なんだかお金・コストの話ばかりで恐縮ですが、現実ですから。
そうなると、 おそらくは、数千円程度の模試代金では、赤字なのではないでしょうか?
首都圏模試のように、模試専業の会社もありますが、どのようにして利益を出しているのかはわかりません。
おそらくは、模試のデータを提携塾に販売する契約でも交わしているのかな?
いずれにしても、 ここまでのコストをかけてまで模試を実施するのはなぜなのか?
こう考えると、おのずから模試の目的が見えてくると思います。
◆模試受験料以外の利益
これですね。
塾にとっての利益とは、生徒が支払ってくれる授業料が全てです。
その他、模試の代金や教材の販売費用もありますが。
ということは、授業料収入につなげるのが、模試の目的ということになります。
授業料収入につながるような、外部の受験生をいかに自塾にとりこむのか、ここがポイントです。
しかし、話はそう単純ではありません。
模試を受けた→入塾した
そんな風には運びませんから。
そこで模試の役割はこうなります。
◆塾のアピール
◆個人情報の獲得
◆塾のアピールについて
精度の高い模試を実施できている塾と、そんなものが無い塾。もうそれだけで勝負はつきます。きちんとした模試を実施しているのなら、その塾にいるだけで安心できますので。親としても、いちいち外部の模試を検討して申し込まなくてもすみます。
しかも、内部で実施された模試のデータは、当然その塾に蓄積していきます。
過去の受験生の合否結果とリンクさせることで、より精度の高い合否判定が可能となります。そのデータに基づいた指導も可能になります。
内部の生徒にとってのサービスの向上、外部の生徒にとっては塾の魅力のアピール。
模試にはこうした役割があるのです。
◆個人情報の獲得について
まず広告宣伝について考えてみます。
例えば、新聞に折り込み広告を入れたり、ポスティングをしたり、TVCMを流したり。
一般に塾の売り上げに占める広告費の割合は5~15%くらいといわれています。
そこまで費用をかけて不特定多数に宣伝したところで、実際に通ってくれる生徒などわずかなのはわかりますね。
私の家にも、ときどきどこかの塾の勧誘員がやってきます。
純朴な新入社員風(に装った)若者がインタホンを鳴らすのですね。
「新しく近所に塾を開いたので、お話だけでも」とか言って。
まさか私が業界の人間だとは思ってもいないのでしょう。
暇つぶしに相手するのも面白そうですが、彼らだって仕事ですから、時間を奪うのは気の毒なので、すぐに追い返すことにしています。
こうして一軒一軒、成果など見込めぬ訪問営業をしているのでしょう。
塾は、気に入ってくれたら何年も使ってもらえる化粧品のような商品とは異なります。
数年でかならず「卒業」してしまうのです。
したがって、ひたすら集客し続けなくてはならないという業態です。
もし、小学生の住所氏名リストが手に入ったら。
もし、受験を考えている小学生の住所氏名リストが手に入ったら。
もし、受験を考えている小学生の成績データまで手にはいったら。
もし、受験を考えている小学生の志望校データまで手に入ったら。
まるで夢のようなプラチナデータですね。
それさえあれば、無駄な広告、無駄な訪問営業はしなくてすむのです。
ピンポイントで営業電話をかけることができます。
「お子さんは、〇〇中学校を志望していますが、算数と理科のここの部分が不足していますね。今までの塾の勉強では不十分だった証拠です。うちの塾にくれば・・・・・」
さらに、模試を受験した生徒がとても優秀だったとしたらどうでしょう?
「お子さんは△△中学を目指しているのですね。今回の模試の成績はとても優秀でしたので、その可能性は十分にあると思います。でも、より確実にするためには、算数のこの部分をもう少しフォローしたほうがいいのです。うちの塾で、お子さん専用のタスクフォースをつくりますよ。ご自宅近所の教室に、△△中学合格実績が豊富な教師を揃えますので、個別指導を受けてみませんか?」
なんともあざとい営業トークですが、どちらも実話です。
珍しくもない話です。受験が近づく時期の営業なんてそんなものです。
さすがにその時期に転塾する生徒はほとんどいませんので。
そこで、とにかく自分の塾に通った(ことになる程度の)設えをつくり、難関校への合格実績とすることが主目的となります。
社団法人全国学習塾協会 という組織があります。
もちろん全ての塾が加盟しているような団体ではありません。
そこが、合格実績についてこんな自主基準を定めています。
受験直前の6か月間のいずれかに➀「在籍」があり、かつ➁同期間に受講契約に基づく30時間以上の「受講」の実態がある生徒、あるいは継続して3か月以上の「受講」の実態がある生徒を、合格実績をカウントする対象の生徒とする。
わかりにくいですが、受講契約を交わして少々の授業を受けさせればOKということでしょう。
授業料を稼ぐ目的から、合格実績を高く見せることで、次の入塾者につなげることが目的になるのですね。
4大塾の模試スケジュール
9月以降の4大塾の6年生対象の模試をHPからざっと拾ってみました。
※不正確さには自信がありますので、実施スケジュール詳細は各塾のHPを直接ごらんください。
気がついたことが2つあります。
★模試実施日が重なっている塾とそうでない塾がある
模試は土日祝日に実施します。そんなに実施可能日は多くないので、どうしてもスケジュールがぶつかりますね。 スケジュールが重なると、当然一人の生徒が両方の塾の模試を受験できません。
塾にとっては、スケジュールが重なることで
①自塾の生徒が外部模試に逃げていかない
②他塾の生徒が受験しにきてくれない
というメリット・デメリットがあります。
逆に、スケジュールがずれていると、
①自塾の生徒が外部模試に逃げていく
②他塾の生徒が受験しにきてくれる
というデメリット・メリットがあるのです。
どちらの塾がどちらの塾へ仕掛けているのかは不明ですが、スケジュール設定ひとつとっても、塾のスタンスがうかがえます。
★無料模試
ある塾だけが、この時期になっても無料模試を連発していますね。
しつこいですが、「無料」の意味味を熟考することをおすすめします。
この記事も参考にどうぞ