今回のロジカルライティングの授業は、野菜の流通について考えます。
生徒は、例によって麻布志望の3人、タロウ・ゲンタ・ワタル です。
問題提起
私:まずこの野菜を見てごらん。
タロウ:ゲッ! 先生、これ何?
ワタル:ほんとに野菜?
ゲンタ:野菜なんだろうけど。見たことないよ。瓜かな?
タロウ:瓜なんか見たことないし。
ワタル:僕、瓜を食べたことないかも。
私:そうか、瓜を食べたことないのか。じゃあ、スイカ・カボチャ・ズッキーニ・メロン・ユウガオって何科の野菜かわかるかな?
タロウ:先生、ユウガオって花じゃないの?
私:ユウガオの実からかんぴょうを作るんだよ。
タロウ:へえ。僕かんぴょうの海苔巻き好きだよ。
ゲンタ:わかった! ウリ科だね。
私:正解。
ワタル:あ、もしかしてキュウリもそうだよね。ウリっていうくらいだから。
私:そうだね。漢字で書けるかな?
ワタル:なんか難しい字。胡瓜だったかな。
タロウ:なんでこんな漢字なの?
私:昔、中国の西の方の異民族を「胡人」といったそうだ。そちらから入ってきた野菜だからそう表記したという説があるね。
ゲンタ:へえ。黄瓜って書くんだと思ってたよ。
私:それも正解だ。
タロウ:でも、キュウリって黄色くないじゃん。変なの。
ワタル:アッ! もしかして? これ、キュウリ?
私:正解だ。
皆:まさか! これきゅうり? お化けキュウリだ!
私:これだけ並べればわかるんじゃないかな。
タロウ:うわ、本当だ。だんだん大きく育っていって、お化けキュウリになってる!
ゲンタ:一番左のやつだって、普段食べてるのよりもだいぶ大きいよ。
ワタル:先生、僕らに見せるために、わざわざ育ててくれたんだ。
私:う、うん。決して収穫をさぼっていたからこんなに育ってしまったんじゃないからな。
皆:怪しい!
私:じゃあ、食べてみようか。
皆:ひえ!無理!
私:みんなはウリ科のアレルギーは無いな? それじゃあ、この一番太くて黄色いやつを切ってみよう。
タロウ:うわあ。種がでっかいね。
ワタル:それはそうだよ。キュウリだって、子孫を残さないと困るわけだから。
私:この種のところも食べられなくはないが、ちょっと酸っぱいし、ヌルヌルしてるからスプーンでこそげ取ってしまおう。皮も硬いからピーラーで剥くぞ。
ゲンタ:なんだかだんだん食べられそうに見えてきた。
私:じゃあ、薄くスライスしたから、このドレッシングをかけて食べてみてごらん。
タロウ:あれ? 普通に食べられるぞ。
ゲンタ:ほんとだ。サラダで出てきても違和感ないね。
私:じゃあ、今度は少し厚切りにして浅漬けにしてみよう。実はもう浅漬けにしたものが冷蔵庫にあるから、そっちを食べてみようか。
ワタル:料理番組みたいだね。どれどれ。あっ、美味しい。
タロウ:ほんとだね。ふつうの浅漬けだよ。
ゲンタ:へえ。このお化けキュウリ、普通に美味しいんだね。
私:完熟すると、食感がふにゃふにゃして、苦みがあって不味いって人もいるね。たぶん、収穫してから時間がたってしまったんじゃないかな。今日食べてもらったのは、そこの庭からとってきたばかりだからね。新鮮だとなかなか美味しいだろ。
皆:今日は勉強になりました!
私:おいおい。勉強はこれからだ。みんなはこの完熟キュウリ、お店で売っているのを見たことあるかな?
皆:ないよ!
タロウ:先生に言われてから、なるべく買い物についていくことにしてるんだ。野菜売り場もよく見るけど、こんなお化けキュウリ、見かけたことなんかないよ。
私:そうだろうな。ではここで考えてもらいたい。何でお店でみかけないんだろうか?
完熟キュウリが市場に出回らない理由
タロウ:そんなの簡単だよ。誰も買わないからだよ。
ゲンタ:そうそう。うわなに、このお化けキュウリ!ってなるからさ。
ワタル:でもさ、もし普通に売られていたら、別に驚かないでしょ。「ああ、完熟キュウリが出てるね」くらいじゃない?
タロウ:確かに。じゃあ、なんで売られてないのかな?
ゲンタ:だから売れないからだよ。
ワタル:それじゃあ堂々巡りじゃないか。売れないから売らない、売らないから売れないって。
皆:うーん。
私:さっきの私の話にヒントがあったよ。
タロウ:ええと、先生が収穫をさぼってたってところ?
私:そこじゃない!
ゲンタ:じゃあ、獲れたてじゃないと美味しくないってとこ?
ワタル:そこだ! 完熟キュウリって、獲れたてじゃないと美味しくないから、お店に並べにくいんだね。
ゲンタ:あとさ、大きいから運ぶのも大変そうだよ。
ワタル:大変って?
ゲンタ:野菜って段ボール箱につめてトラックに載せて輸送するよね。でも、こんなお化けキュウリ、たくさんは箱に入らないだろ?
ワタル:そうか! 輸送費が高くなっちゃうんだね。
タロウ:その分、売る値段を高くすればいいんじゃないのかな。
ワタル:でも、ただのキュウリだからなあ。あんまり高いと買う人がいないよ。
ゲンタ:そっか、そういうことか。獲れたて新鮮じゃないと美味しくないから、よほど消費地の近くじゃないと売りにくいし、輸送コストがかかる割には高く売れるわけじゃないから儲からない。だからお店でも売らない、でしょ?
私:大正解だな。どんなに美味しい野菜だとしても、流通まで考えないと、市場で売られないこともあるってことだな。
タロウ:それに所詮キュウリだから、そんなに値段高くてはね。
ワタル:あっ、じゃあ、もしこの完熟キュウリがメロンみたいに甘くておいしければ別ってこと?
ゲンタ:それはそうだよ! もしメロンと同じ味だったら、高くても買うよ。
タロウ:それに、農家だって高く売れるならいっぱい作るしね。
今回は、野菜の市場流通の第一歩について考えてもらいました。
付加価値のつけにくい野菜の市場流通は、なかなか難しい問題です。
日本の野菜は世界的にみても割高なのですが、かといって農家が儲けているというわけではないところが厄介なのです。
もし家庭菜園(ベランダ菜園でも)をやられるなら、ぜひ収穫までの困難と、市場価格について家庭で話し合ってほしいと思います。