中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

海外帰国生の悩み 日本の学校か、海外の学校か?

今回は、海外からの帰国生の相談について考えます。

帰国生の記述力の相談とともによく聞かれるのが、進路のご相談なのです。

現地校か日本人学校

これについては、イギリスやアメリカのような英語圏なら現地校、そうでないなら日本人学校を選ぶ方が大半です。

それで正解だとは思います。

しかし、果たして唯一解でしょうか?

この考えの前提として、

「英語は重要だから身につけるチャンスを活かしたい」

というものがあります。これはわかります。

しかし、英語圏以外で現地校を選ばないということは、

「英語以外の言語は不要だから身につけなくて良い」

ということなのでしょうか?

もちろん、親が現地語にある程度習熟していないと現地校のハードルが高いという問題はあります。しかし今や日本で、英語が使えることはアドバンテージではなくなってきつつあるような気がします。ネイティブばりに流暢に使いこなせるに越したことはないですが、そうした人は大勢います。

それよりも、英語以外の言語をマスターできるチャンスを活かした方が良いのではないかと思うのです。

例えば、英語がネイティブに使える人材と、英語は普通程度に使える上にオランダ語がある程度わかる人材と、どちらが社会で評価されるかな、と考えてしまいます。

 

インターに入れるべきか?

これは簡単です。

将来、日本の教育環境に入れるつもりがあるかどうかで決まります。

海外でインターに通い、仮に帰国後も継続してインターに通うとすると、日本の大学への進路は考えずに海外の大学を目指すことになるでしょう。日本の大学では、受け入れの選択肢があまりにも狭いからです。

また、中受や高受でも受験資格を満たさない場合があることにも気をつけなくてはなりません。

かつては、受験資格としては「一条校」に限る場合が普通でした。「一条校」とは、学校教育法第一条に規定されている学校のことで、文科省の定めた学習指導要領に基づき教育が行われている学校、つまり普通の国内の学校です。海外の日本人学校もこれに相当します。

最近はこの条件が緩められているようですが、それでもまだ一般的には、「日本の学校と同等の教育を修了見込みであること」とされていますので、日本人学校はもちろんOKですし、現地校も大目に見てもらえる場合が多いようですが、インターは難しいかもしれません。

ただし、現地校の教育環境が好ましくない場合にはインターが唯一の選択肢となる場合もあると思います。

国や地域にもよりますが、インターに入れることが子供の進路を広げるのか、あるいは狭めるのかの判断は重要です。

 

本の学校教育の水準は意外と高い

「日本で中高6年間英語を学んでも身につかない」

これは残念ながら半分当たっています。日本の学校教育の環境では、実践的な英語力を身につけるのは難しいのは確かです。

しかし、だからといって

アメリカ(イギリスorドイツor etc,)の学校教育の方が優れている」わけではないことに注意する必要があります。

国によって教育制度や方針はだいぶ異なります。

ドイツのように10歳でエリートコース/職業専門家コース/一般コースを選ばせる国もあれば、アメリカのように高校まではゆったりしていたかと思えば、大学からいきなりフルスロットルで加速する国もあります。

どちらが優れているとか劣っているとかいうことではありません。

私としては、教育機会がほぼ公平にひらかれていて、誰もがそれなりの水準の教育を受けられる日本の制度も悪くないとおもっています。

 

日本を捨てる(子供に捨てさせる)覚悟があるか?

昨今の経済情勢を見ていると、日本の立ち遅れは明らかです。

知人にも海外を拠点に仕事をされている方がいますが、皆さん口を揃えて「子供には海外で仕事をさせるつもりだ」とおっしゃいます。欧米の一般企業で普通の給与をもらっているだけで、40代で東京にマンションがキャッシュで買えてしまうからです。

私もたまに海外に行くと、物価水準(というより所得水準)の格差に目眩を覚えます。まるで発展途上国から来た貧乏な人の気分になります。ロンドンのチャイナタウンでラーメンに青島ビール一本飲んだだけで5000円かかります。それなのに周りの客層はごく普通の労働階級なんですよね。円安だけでは説明できません。明らかに所得水準が日本とは異なるのです。

今の小中学生が大人になる頃に状況が好転しているとはとても思えないですね。

そうなると、子供達の世代には海外への脱出を勧めたくもなってしまいます。

現在(あるいは今後)、海外生活をするチャンスがあるのなら、それを活かすのも良いと思います。

 

4つの進路

整理すると、道は4つになります。

(1)海外から帰国→日本の高等教育→海外で就職

(2)海外→海外の高等教育→海外で就職

(3)海外から帰国→日本の高等教育→日本で就職

(4)海外→海外の高等教育→帰国して日本で就職

 

おそらく主流は(3)だと思われます。

海外経験と英語力が日本国内では評価されるかもしれませんし、実際に役立つ場面も多いにあるはずです。

(4)は、就職先を選ぶ必要があります。海外大学を出た日本人の若者を、「理屈ばかりで使えない」「ただの英語屋」と見下す風潮が、旧弊な日本企業には残念ながらまだのこっているからです。自己主張を抑えて企業論理に合わせられる人材を求める企業が多いのです。そうなると外資系になりますが、今度は英語力がまるで武器にはなりません。それ以外の力で勝負していくことになります。

(2)については、すでに日本という狭い枠組みを出ています。

一番難しいのが(1)のケースです。

英語以外の学力が高くないと、日本の教育環境ではやっていけません。海外の学校で優秀とされていた生徒も、日本でそのまま通用するわけではないからです。それだったらいっそのこと海外へ、と考えたところで、今度は英語力が低くて評価されないのです。日本国内ではは高評価だったはずの英語力も、海外に行ってしまえば、中高生レベルの英語力ということになり、現地の社会では低評価となってしまいます。ただし、語学力が劣っていたとしても、それを補う何かを持っていれば話は別です。日本の大学時代に世界的に評価の対象となるようなことがあればということです。

 

結局のところ、海外にいる間から日本のトップレベルの教科学習を実践しておくか、日本に戻っても将来ビジネスで通用する語学力を身に付けるか、あるいは世界で評価されるような実績をあげるか、それらの努力が必須です。

 

帰国生の英語力は羨ましいと思いますが、実は茨の道でもあることを覚悟しなくてはならないので、なかなか大変です。

 

帰国生入試の実態についてはこちらに書きました。

peter-lws.hateblo.jp