名作とよばれる作家のもので、一番取りつきやすいのは太宰治かもしれません。
今回は太宰治についてあれこれ考えましょう。
太宰治について
1909年生
1949年没
今ふと思ったのですが前々回とりあげた芥川龍之介も前回の三島由紀夫も、そして今回の太宰治も、みな自殺してますね。
作家は我々凡人とは異なる繊細な感性の持ち主だからでしょうか。
次回は川端康成かなと思っていたのですが、自殺作家シリーズが続くのは避けたいのでやめておきます。
青森県津軽の名家の生まれです。父親は県議会議員・衆議院議員・貴族院議員を歴任した地元の名士です。前回の三島由紀夫が山の手のお坊ちゃまだとすると、太宰治は地方のお坊ちゃまですね。
県立弘前高校から帝大仏文科へと進みます。秀才だったのでしょうか。ただし、高校時代に自殺騒ぎを起こしたり、学業にも身を入れていなかったようで、ほぼ無試験で進学したそうです。
その後、心中事件、結婚、薬物中毒、大学除籍等、自堕落な生活を送りつつも作品を書き続けています。
その後の心中未遂や乱れた女性関係についてはここでは省略しましょう。
作品について
作品数は280作品ほどのようですね。
やはりkindle本の「太宰治全集 280作品」が200円で購入できます。お薦めです。
1934 『ロマネスク』
1935 『ダス・ゲマイネ』『道化の華』
1939 『富嶽百景』『女生徒』
1940 『走れメロス』
1941 『東京八景』『清貧譚』『新ハムレット』
1944 『津軽』
1945 『竹青』『御伽草子』『パンドラの函』
1948 『人間失格』『桜桃』『グッドバイ』
他にも山のように小品があって、載せきれません。
思い返すと、私は中学生のときに太宰治全作品読破を達成したのでした。しかし短期間に読み過ぎたので記憶がだいぶ入り混じってしまっています。
お薦め
普通なら「走れメロス」というところでしょう。もちろん読むべきです。
しかしここはあえて「人間失格」をあげておきます。
恥の多い生涯を送って来ました。
自分には、人間の生活というものが、見当つかないのです。自分は東北の田舎に生れましたので、汽車をはじめて見たのは、よほど大きくなってからでした。自分は停車場のブリッジを、上って、降りて、そうしてそれが線路をまたぎ越えるために造られたものだという事には全然気づかず、ただそれは停車場の構内を外国の遊戯場みたいに、複雑に楽しく、ハイカラにするためにのみ、設備せられてあるものだとばかり思っていました。
冒頭の一節は有名ですね。
太宰の作品群の中でも、「私小説」といわれる自伝的な小説です。そうすると次に読むべきは「思ひで」「津軽」「富岳百景」ですね。
こうしてどっぷりと私小説ワールドにはまった後は、趣向を変えて「御伽草子」をおすすめします。これは面白いです。私小説を読んだ後だと、「へえ、太宰治もこんな話を書くのだな」と思えるでしょう。
「御伽草子」には、「瘤取り」「浦島さん」「カチカチ山」「舌切雀」の4編が収められています。そして独特のシニカルな解釈がされてるのです。
とくに私が好きなのは「カチカチ山」ですね。
カチカチ山の物語に於ける兎は少女、さうしてあの慘めな敗北を喫する狸は、その兎の少女を戀してゐる醜男。これはもう疑ひを容れぬ儼然たる事實のやうに私には思はれる。
こう言われてしまうと、たしかにそれ以外の設定があり得ないような気すらしてきます。無慈悲な美少女が醜男を翻弄する物語。おかげで私の中の「カチカチ山」はだいぶおかしなことになってしまいました。
あとは「女生徒」と「斜陽」をおさえておけば、だいたいOKだと思います。