国語の入試問題を指導していると、いつも迷うのが国文法の扱いです。
どこまで教えるべきか? 教えないべきか?
今回はこの問題を掘り下げてみます。
入試問題例①
◆自分の後輩が出世できるように仕向けよう。
下線部と同じ用法のものを次から選びなさい。
ア.そこに入らないように言ったはずだ。
イ.練習したので逆上がりができるようになった。
ウ.まるで春の日のようにあたたかい日だ。
エ.よく見えるように高いところに登った。
「ように」の用法ですね。
「ように」は助動詞「ようだ」の連用形です。
未然: ようだろ
連用: ようだっ ようで ように
終止: ようだ
連体: ような
仮定: ようなら
と活用します。
「ようだ」には3つの意味がありますね。
①推定
②比況
③例示
です。
①の推定はこんな意味ですね。
「この店は、朝まで開いているようだ。」
何らかの根拠があって推定できる場合に用います。
もう終電を過ぎた時間なのに、まだ客は一人も帰る気配がありません。どうやら朝まで開いているようです。
このように「どうやら」を補うことができるのがポイントです。
②の比況とは、「たとえ」のことです。
「桜の花びらが、雪のようだ。」
私の家族がみな大好きなアニメの「秒速5㎝」に似たセリフがありました。たしか「まるで雪みたい」だったかな?
新海誠監督作品はどれも素敵ですが、初期のこの作品はお勧めです。忘れかけていた何かを思い出させてくれます。
「桜の花びらがまるで雪のようだ。」
このように「まるで」を補うことができます。
③例示は簡単ですね。
「太郎のようにうまくなりたい。」
これは、「たとえば」を補えます。
「例えば、太郎のようにうまくなりたい。」
さて、この文法の知識で問題を解こうとすると行き詰まるのです。
そもそも助動詞の連用形という知識もあまり教えたくはありません。
ここは、問題を解くことだけを目標として、もう少しかみ砕いて整理してあげなければいけません。
そこで、私は「ように」の使い方を6種類に分けて指導しました。
1.目標・変化を表す「~ように」
①目標・・・目標実現のために努力する
英語が話せるように、発音をトレーニングします。
できるだけ野菜を食べるようにしています。
明日は9時までに学校に来るようにしてください。
可愛くなれるように努力する。
忘れないようにメモをする。
②変化・・・「ようになる」
英語が話せるようになりました。
私は疲れるようになった。
2.間接話法の「~ように」
先生は太郎君に毎日宿題を出すように言いました。
3.同様の「~ように」
今から先生が言うように、言ってください。
4.比喩の「~ように」
太郎君の家はお城のように広いです。
5.例示の「~ように」
私はケーキやクッキーのように甘いものが好きです。
このように考えると、問題は解けるのです。
出世できるように・・・目標
入らないように・・・間接話法
できるように・・・変化
春の日のように・・・比喩
見えるように・・・目標
ということで正解はエとなります。
中学受験の国語の文法問題は、体系的な知識や品詞分類の知識は不要と思っています。それは中学校の国文法の授業で学ぶべき知識です。
とにかく問題が解けること。
これだけを目標とした場合は、小学生にもわかりやすく説明し納得させることが大切です。
入試問題例② 「れ」
◆「仕事の調子はどう?」と聞かれました。
下線部と同じ用法のものを次から選びなさい。
ア.世界的に活躍されている先生の講話。
イ.あらゆるものを手に入れたい。
ウ.犬に食べられてしまった。
エ.今日は自分から起きられた。
これは、助動詞「れる・られる」の問題でしょうか。
活用形はこうですね。
基本形/ 未然形/ 連用形 /終止形/ 連体形/仮定形/命令形
れる/れ/れ/れる/ れる/れれ/れろ・れよ
この助動詞には以下の4つの使われ方があります。
「れる」「られる」
① 受け身 … 誰かから、その動作を受ける。
〔例〕お母さんにほめられる。(ほめるという動作を受ける)
② 可能 … その動作を、することができる。
〔例〕納豆を食べられる。(食べることができる)
③ 尊敬 … 目上の人の動作につけて、敬意を表す。
〔例〕先生がお茶を飲まれる。(主語が目上になっていることに注目)
④ 自発 … 自然にそういう動作がおこる。
〔例〕花子のことが思い出される。(自然と思い出してしまう)
さて、問題にあてはめてみましょう。
聞かれました・・・受身
活躍されている・・・尊敬
手に入れたい・・・動詞「入れる」の一部(下一段活用)
犬に食べられて・・・受身
起きられた・・・可能
ということで正解はウでした。
れる・られるは頻出ですので、4種類の意味を教えることには意味があります。
しかし、なるべく文法用語は使いたくないですね。
この問題程度なら、意味を考えれば解くことができます。
日本語文法が役に立つ
「日本語文法」と「国文法」は実は違います。
中学校で学ぶのが「国文法」ですね。「学校文法」ともいいます。
高校で学ぶ古文を意識した体系です。
「日本語文法」は、日本語を母語としない外国人を対象とした日本語教育の文法です。
この両者は、目的が異なりますので、文法体系も異なります。
実は、この「日本語文法」が、小学生が入試問題を解くのには役立つのです。
文法用語を使わない実践的な内容だからです。
ただ、ここが悩みどころです。
入試問題を作っているのは中学校の国語の先生ですので、「学校文法」を下敷きにしているのは明らかだからです。
私は、国語力に余裕がある生徒には、「学校文法」の一部を教えることにしています。どうせ中学校で学ぶ内容ですので、少しだけ先取りも悪くないかな、と思うからです。でも、国語力に余裕が無い生徒には教えません。
余分な知識が入る余地がないからです。
そうした生徒には、緊急避難的な「日本語文法」でとりあえず問題を解けることを優先します。
文法の指導は、なかなか教師を悩ませる問題なのです。