夏休みを目前にしたこの時期になると、必ず出てくる話題が、「家庭教師」「個別指導」についてのものです。
すでに集団指導塾に通っていて、成績が急降下してしまった!
これは家庭教師を頼むしかない!
と焦ってしまうのですね。
今回は、そんな悩みに向き合ってみたいと思います。
※特定の塾や家庭教師派遣業者を貶める意図も持ち上げる意図もありません。私の考えを申し上げるだけですのでご容赦ください。
今回はサピックスを集団指導塾の代表として取り上げていますが、今回の記事の「SAPIX」の部分を「日能研」「四谷大塚」「早稲田アカデミー」のどの塾の名前に取り替えても成立する話です。
家庭教師と個別指導の違い
家庭教師はわかりやすいのですが、個別指導の定義があいまいです。
一般には、狭く仕切られたブースで、1対1or1対2の指導を座って行うのが個別指導塾とされています。
中には、教師は立ってホワイトボードを使って生徒1名に指導するところもあり、見た目は集団指導塾のようですが、生徒は1名だけなので、これも個別指導塾ということになります。
個別指導塾が独自のカリキュラムと教材を持っており、それに従ってカリキュラム学習を行う個別指導塾が大半ですが、中には、生徒の要望に応じて個別の教材を用意するところもあります。
今回の検討は、成績低迷のわが子を何とかしよう、という親の思いについてですので、生徒一人一人にフィットした指導を1対1で行う個別指導のみを対象としましょう。
家に来てもらえば家庭教師、教室に通えば個別指導ということで、本質は変わりませんね。
面倒なので、今回は全て「家庭教師」で統一します。
根拠のない風説から自由になろう
まずは、巷で流布している風説をいくつか取り上げます。結論からいえば全て根拠のない噂です。家庭教師を真剣に探し始める前に、一度冷静になろう、という提案です。
SAPIXのαコースの生徒は皆家庭教師をつけている
デマです。
エビデンスが不明です。
これを根拠づけるためには、サピックスがαコース(この塾の最上位コースの名称)の生徒全員の家庭学習環境を正確に調査し、家庭教師依頼率を算出するしかありませんが、そんな調査は行われていません。そもそもこの塾の指導としては「家庭教師をつけるな」というものだと聞いていますので、仮に家庭教師を頼んでいるご家庭があったとして、さらに仮に塾が調査をしたとして、正直な申告など期待できません。つまり、データが存在しません。
また、サピックスの主要校舎の上位の生徒のほとんどを囲い込む家庭教師派遣業者が存在したとして、「サピックス〇〇校のαコースの生徒数のうち65%がうちの家庭教師の顧客である」というデータがあれば別ですが、そんな家庭教師派遣業者は存在しません。
このデマが根強く流布する理由は、わが子の成績に悩む保護者に漬け込む業者が多いからだというのが私の邪推です。
家庭教師をつけると成績がかえって下がる
これも良くききますね。
やはりデマです。
どんな形であれ、勉強すればそれは必ず血肉となります。勉強したらかえって成績が下がる、冷静に考えればおかしいことはすぐにわかると思います。
まず認識すべきは、勉強と学力の関係は単純ではないということです。
勉強はやらなければ成績・学力は下がる。これは当然です。しかし、今日やらないと明日下がるわけでもなく、今日がんばれば明日上がるわけでもありません。
ちょっと家庭教師をつけたら、みるみる成績が上がる、そんなわけないのです。
良い家庭教師は年度途中からは探せない
ううむ。家庭教師市場状況に詳しくない私には、真実なのかどうかがよくわかりません。
塾屋の感覚でいえば、年度当初というのがやはり最大の集客時期には間違いないですが、年度途中で入ってくる(辞める)生徒も珍しくはありません。良いとおもって入った塾が合わずに途中で移る、そんなのは普通です。
どうして家庭教師だけが、いったん依頼すると年間通して依頼、となるのかよくわからないのです。塾以上に相性がありそうに思いますが。
何となく阿漕な業者の「今入らないともう枠は埋まりますよ!」というセールストークの匂いがしますが、どうなんでしょうか。こんな文言には踊らされずに、必要と思ったタイミングで探せばよいと思います。
優秀な家庭教師は少ない
YESです。
ここで「優秀な」というのは、
・指導経験が豊富
・指導スキルが高い
・人間性
この3点でしょうか。
教師の経験値というのは、どれだけの生徒に指導をしてきたのか、その生徒のレベルと人数に比例するのです。
例えば1週間に10名の生徒を家庭教師が指導できたとして(できるのかな?)、10年の指導歴で指導したのは100名ということになります。これは、大手集団指導塾なら、入社1年目の新卒講師が1年間に指導する人数を下回ります。
もちろん、1対1の濃密な指導時間で得られる経験といものがありますので単純比較はできません。
集団指導経験と個別指導経験の両方を豊富に持つ教師というのが理想です。
きわめて少ないですね。
しかも、最難関校受験生の指導経験が豊富となると、とても少ないことがわかると思います。
東大卒でないと信頼できない
もちろんデマです。
なんなんでしょうね、このデマは。
「家庭教師を探す際には、学歴を重視すること」
などとしたり顔でネットで広める方がいるからでしょうか。
家庭教師に学歴など不要です。まあ、最低限の学歴でよろしい。
みなさん誤解していますが、たかが中学入試問題ですよ?
東大卒ほどの高度な学力は不要です。
むしろ、生徒の抱える問題点を見抜く力=洞察力 を重視しましょう。
おすすめは、中学受験経験者=中高一貫校出身者 です。
ただし、東大卒の肩書は、「東大目指して高校時代に真面目に努力できた」証であることは確かです。一つの目安になることは否定できません。
SAPIXの教材を教えられる家庭教師は少ない
ううむ、これもYES&NOですね。
昔は、「SAPIXのフォローを家庭教師センターに頼んだら断られた」などという話がありました。しかし、今やSAPIXの教材だからといって特殊な高難度のものばかりをやっているわけではありません。普通の家庭教師なら普通に教えられるはずです。
ただし、SAPIXの6年生テキストに載っている「これは好きな人だけやってね」的なマニアックな問題を、いきなり出してすぐ教えろ! というのは無謀でしょう。
その場ですぐに解けて教えられる教師は少ないはずです。
かといって、ダメな教師なのかといえばそういうことでもありません。こうした問題については事前に家庭教師に渡しておいて、じっくりと解き方・教え方を検討してもらっておいてから教わるほうがはるかに効率よく、かつ上手に教えてもらえます。
もっとも、歯が立たない問題を教えてもらうことは無駄です。
現時点の学力がそこに達していないからです。
家庭教師は頼むべきなのか?
もちろん答えはYESorNOですね。
人による、としか言えないです。
ただし、本音のアドバイスをすれば、以下のようになります。
子どもの学習量・時間コントロールのアウトソーシング
とにかく親が見てあげられない。子どもの勉強に一切かかわれない。そうした場合の親代わりとしての家庭教師です。
塾では教えてもらえない
情けない塾ですが、集団指導塾はあくまでも集団指導ですから、全ての生徒の全ての要望に応えることはできません。
例えば、帰国子女で国語が苦手だとか、麻布対策の社会科記述を見てほしいだとか、公立中高一貫校対策の過去問演習をやってほしいだとか。ピンポイントで足りない部分を補う利用法は有効です。
親の精神安定剤
超ベテランの先生に出会えた場合。塾には相談しにくいような内容でも受け止めてくれる先生に出会えれば、志望校選択やわが子の生活態度の改善、さらには私立中学進学後のアドバイスまで、いろいろ相談できると素晴らしいですね。
ただし、これだけのベテラン教師の時間を拘束することになるので、親の相談でも所定の費用を支払わなくてはなりません。
上記のような状況ではなく、とにかく成績不振を家庭教師に丸投げにして解決するつもりなら、止めたほうが無難です。お金をどぶに捨てる結果になりかねません。
※家庭教師の詳細および探し方については以下の記事をお読みください。