
※この記事の初出は2024.07.02です。2025.11.13にUPDATEし、有料記事化しました。
今回のロジカルライティングの授業テーマは「暦」についてです。
暦については、1842年に太陰暦から太陽暦に切り替わった、そんなことしか子供たちはしりません。今回は生徒のふとした疑問から、暦について深堀りする授業となりました。
例によって登場人物は麻布志望の3人組、タロウ・ワタル・ゲンタ(仮名)です。実際の生徒・授業ではなく、過去の授業を再構成したものです。
元号って意味あるの?
タロウ:先生、今年何年だっけ?
ワタル:2025年に決まってるじゃん。タロウ、だいじょうぶ?
タロウ:いや僕だってわかってるよ。そうじゃなくて令和何年だっけ?
ワタル:ええっと、令和5年? 6年? どっちだっけ?
ゲンタ:令和7年!
ワタル:おお、ゲンタすごい!
私:いや、凄くないから。
タロウ:令和の前は平成だろ。平成って何年までだっけ?
一同:うーん。
私:平成は31年までだ。じゃあ、平成31年は西暦でいうと?
ゲンタ:ええっと、2024ー6=2018だから、2018年!
ワタル:植木算だから1足すんだよ。だから2019年!
私:正解!
ゲンタ:なんでここに植木算が出てくるわけ?
タロウ:ほんと面倒くさいよね。なんで元号なんてあるんだろう?
私:どうしてだろうね? みんなで考えてみよう。それじゃあ、最初の元号は知ってるかな?
ワタル:それは習ったよ。大化だよ。大化の改新の。
私:正解! 大化の後は、元号を作ったり作らなかったりしたのだが、701年の大宝以降は欠かさずつけるようになったんだ。
タロウ:大宝律令の大宝だね。それからいくつくらい元号が作られたのかな?
タロウ:うーん、今が第126代天皇だから、126個目だよ。
私:よく知ってたね。正解は、大化から数えて248番目だ。
タロウ:えー! それじゃあ計算が合わないよ。天皇が変わるごとに元号1つじゃないの?
私:それは明治以降の決まりだね。「一世一元」という。
ワタル:ずいぶんたくさんあるんだね。元号って、天皇が変わる以外には、どういう時に変えたのかな?
私:めでたいときと、その逆と、両方あるみたいだね。たとえば708年に、慶雲5年が「和銅」元年に改元された。理由はわかるかな?
ワタル:もしかして和同開珎?
私:その通り! 武蔵の国から銅が算出されて献上されたんだね。めでたいことなので元号も変え、新しい貨幣も作ったんだ。
ゲンタ:他には?
私:白雉(はくち): 珍しい白いキジが献上されたので改元した。
朱鳥(すちょう): 赤いキジが献上されたので改元。
宝亀(ほうき): 珍しい白い亀が献上されたから改元。
ゲンタ:何か、わかりやすいっていうか、単純っていうか。
私:奈良時代くらいまでは、どちらかというと縁起が良いときに改元した例が目立つ。だが平安以降は逆に、凶事をはらう、まあ簡単にいえばリセット改元が増えるんだ。
タロウ:例えば?
私:そうだな。938年に承平から天慶へ改元したんだが、理由はわかるかな?
タロウ:もしかして平将門の乱が原因?
私:その通りだ。たまた地震も起きた。あとははしか・天然痘・インフルエンザ等の伝染病が流行すると改元される例が多かったね。あとは火災かな。そういえば、おもしろい改元理由もあったな。989年には、ハレー彗星が現れたことで改元されたんだ。
ゲンタ:彗星? なんで?
私:見慣れない天文現象だったから、凶事の前触れとされたんだね。1145年にもハレー彗星で改元された。
タロウ:なんか、迷信深すぎるって気もするけどなあ。
私:仕方ないな。そういう時代だったんだろう。そういれば、鳥羽天皇は、異常気象の凶作で、4回も改元したが効果があがらず謹慎となった。
ワタル:可哀そう! どう考えても天皇のせいじゃないし、改元で異常気象が収まるわけもないのに。
私:天皇と言う立場は、そういう立場だってことだな。
ゲンタ:先生、そもそも元号ってどういう意味があるの?
私:最初に元号が定められた頃の日本を考えてみてごらん。
ゲンタ:大化の改新だろ。それで律令政治が始まったんだよね。
ワタル:そうそう。中国の律令制をまねしてさ。
タロウ:あっ、そうか。元号も中国の真似をしたんだね、きっと。
私:その通り。そもそも元号は中国で生まれたんだ。紀元前115年ごろ、前漢の武帝が「建元」という元号を定めたのが最初とされているね。
タロウ:その武帝って人はどんな皇帝だったの?
私:漢の全盛期を築いた人物だね。
ゲンタ:それで何で「建元」なんて元号を定めたのかな?
私:なんでだと思う?
ワタル:何となく格好いいからとかじゃないの? ほら、「私が支配するこの年から、建元1年と数えるがよい!」とか言ってさ。
タロウ:まさかそんなわけないよ。
私:正解!
タロウ:ええっ?
私:そもそも名前をつけるってどんな意味があるんだろう。
ゲンタ:それは、名前をつけないと不便だからじゃないか。
私:そういえばゲンタは何かペット飼ってたよね。
ゲンタ:うん、ハムスターが3匹
私:名前はあるの?
ゲンタ:僕がつけたんだよ。ハム吉・ハム助・ハム子。
タロウ:うわ、単純。
ゲンタ:いいんだよ、僕が考えてつけてあげたんだから。
私:それはゲンタがつけてあげたんだね。なんでゲンタが名前つけたの?
ゲンタ:それは僕のペットだから。やっぱり自分のお小遣いで買ってきたハムスターだし、僕が餌やって世話してるんだし、名前をつけるのは僕に決まってるよ。
私:つまり、ゲンタが支配しているってことが名前をつけることなんだね。
ゲンタ:そんなこと考えたこともないけど。でも、そうなのかな。
タロウ:僕、それ、わかるよ。僕もすごく大切にしているハサミがあって。
ワタル:ハサミ?
タロウ:去年、お父さんがドイツで買ってきてくれたお土産なんだ。もうものすごくよく切れるハサミでね。名前もつけたんだよ。
ゲンタ:何て?
タロウ:はさ美。
ゲンタ:・・・。
タロウ:そしたら、この間、妹が勝手に僕のはさ美使ったから。だからものすごく怒ったんだ。僕のはさ美勝手に使うな!っていって。
ワタル:妹に同情するなあ。
タロウ:だから、名前をつけると自分の物って気分が高まるのはわかるんだよ。
私:そもそも名前をつける・つけられるという関係は、支配する・されるの関係を意味していたんだね。だから、皇帝のような支配者は、国の名前を定め、都市の名前を定め、家臣に苗字を授ける。
タロウ:ああ、それは聞いたことがあるね。ほら、中臣鎌足が藤原の苗字を天皇から授かったって話。
ゲンタ:それで元号をつけたのか。でも何に名前をつけたんだ?
私:時間につけたんだね。
タロウ:時間に名前なんかつけられるの?
私:名前をつけることによって、時を皇帝が支配することを示したんだよ。
ゲンタ:なるほど。それはかっこいいね。僕もやってみたいな。「今年からゲンタ元年とする」なんてさ。
タロウ:それだけは止めて。
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※ここまでの話で、元号の基本知識は得られたと思います。時に名前をつけ、皇帝(王・天皇)が時をも支配する。
なかなか格好いいのですが、そこには大きな責任もともないますね。だからこそ、凶事の際には改元せざるをえなくなったのでしょう。また、平安時代の半ば以降には、決まった干支の年に必ず改元する「革年改元」も慣例化していきます。例によってこれも中国由来です。甲子(きのえね)の年と辛酉(かのととり)の年には大きな変化が起こるとされていたため、あらかじめ改元することで凶事から免れようとしたのですね。こういう慣例って、いったんはじまるとやめられなくなるという性質があります。もし「こんな改元には意味がない」と行わなかったとして、万が一何か凶事がおきたら大変な責任問題になりますので。そして凶事など数限りなく起こるものなのです。
さて、話題は改元から暦に移ります。
ご存知のように、江戸時代までは太陰暦、明治になって太陽暦になった、そう覚えている方が多いでしょう。さらに、太陰暦は月の動きに基づいていたから不正確だった、そこで明治維新を期に正確な太陽暦を導入した、そう習ったかもしれません。
しかし江戸時代の暦は、不正確ではなかったのです。
そのあたりについては、面白い小説を読みましたのでご紹介します。

読後感は、久々に一気読みするほど面白かった、です。
上下2巻があっという間なのは保障します。
それにしても、こんな地味なテーマに目をつけ、ここまで面白く小説に仕立てるのは、さすがにプロですね。冲方 丁と言う作家は、ライトノベル・SFの人という認識で手を出したことはなかったのですが、不明を恥じました。読書って、こういう出会いがあるからやめられないのです。
岡田准一主演で映画化されているようですが、そちらは見ていません。またコミック化もされているようですね。
こちらは全9巻だそうです。基本的に小説のコミック化は評価しない主義の私ですが、江戸時代好きの人ならともかくとして、こうした時代小説は絵があったほうが物語に入り込みやすいのかもしれません。


