ひところあんなに教育界を賑わせた「リモート授業」について、最近はほとんど話題にならなくなりました。中学校選びの基準にすらなっていたのにね。
そろそろこのへんで「リモート授業」の功罪について検証する時期だと思います。
なんであんなにもてはやされたのだろう?
答えは簡単、「いかにも今風」だからです。
そう言ってしまえば身も蓋もないですね。
PCを介して、遠隔地で同時中継授業を行う。
昭和であれば、テレビ局でもなければできなかったスタイルが、ネット環境とPCの進歩によって簡単に実現可能となりました。
これを取り入れることで、いかにも「新しいこと」をやっている感が簡単に演出できるのです。
もちろん文部科学省の方針もそれを後押ししました。
そんなタイミングでの「コロナ禍」です。
リモート授業を取り入れている=すすんだ学校
リモート授業を取り入れていない=遅れた学校
このわかりやすい図式が成立してしまったのです。
さらに、塾が追随します。
本来なら、こうした学校にできぬような新しいことは塾が率先してやらなくてはならないのですが、残念ながら営利企業にすぎぬ塾にはその予算がありません。
しかし、コロナ禍の中、対応しないわけにはいかなくなったのです。
そうしないとつぶれますから。
笑い話のようですが、その時期にはIPadが入手困難だったそうです。とりあえず教室にIPadを1台入れてWiFiの電波を飛ばすだけでリモート授業ができますので。
本当に役に立ったのだろうか
もちろん答えはYESです。
感染防止には有効に決まっています。
その点を考えれば、今後も有効です。
コロナも終わったわけではありませんし、インフルエンザもあります。それ以外の感染症だって心配です。
感染症の拡大を防ぐには、一か所に集まることを避けるのが一番です。
しかし、生徒は自宅から受講するとして、教師はどうだったのでしょうか?
私が知る範囲(とてもせまい範囲です)では、多くの塾・学校では、教師は学校に登校・塾に出社して、そこからリモート授業を行ったそうです。
笑い話としか思えません。
教師だって、自宅にPCが1台あれば、問題なくリモート授業が実施できます。そもそもそういうシステムですので。
それをわざわざ校舎・教室に集まってリモート授業をしていたのでは、感染予防にも何にもなりません。
教育現場では、「教師は生徒のために犠牲になるもの」という価値観が強いのでしょう。塾も体質は古いですからね。「社員は会社に出社するもの」という価値観から脱却できなかったのでしょう。
先生方だって、満員電車や職員室で感染のリスクにさらされたくなかったでしょうに。
乳幼児がいる先生や自宅で介護をしている先生もいたでしょうに。
同情を禁じえませんね。
リアル授業>>>リモート授業
これはもうどうしようもありません。
リモート授業は、何をどう工夫したところで、実際の授業の劣化版でしかありません。
生徒同士のコミュニケーションの大切さを抜きにしても、リモート授業は授業らしきものを何とか工夫して実施しているに過ぎないのです。
non-verbal communication (非言語コミュニケーション=NVC)という言葉がありますね。文字通り、言葉以外を用いたコミュニケーションです。
授業というのは、単なる知識の伝達ではありません。NVCを駆使しながら、生徒の状況を把握し、生徒の集中力を高めていく。
授業では、これがいかに大切か、教師は皆知っています。このNVCがリモートでは封印されてしまうわけです。
したがって、リモート授業を行うのは、リアル授業の実施が不可能な場合のみに限られると思っています。
◆遠隔地
例えば海外の生徒を指導するならこれしかありません。首都圏であったとしても、電車で1時間以上かかるような場所から教室に通うのは時間がもったいない。
また、オンライン英会話もこれですね。
◆教室に行けない場合
病気その他の事情によりどうしても教室に行くことが出来ない生徒の場合には有効でしょう。
◆時間の節約
受験学年の場合です。しかし、1時間以上離れている場合ならともかく、30分程度で通えるなら、リアル授業のほうがはるかに内容は充実しますので、あくまでもリモート授業は緊急避難と考えるべきでしょうね。
ハイブリッド授業
たとえば英語教室に通う場合。週3回の授業のうち、2回はリモートで、1回は対面で、そんなやり方はいいですね。
英語の場合、週1回の授業では効果は高くありません。かといって週3回以上教室に通うことは物理的に難しい。それを解消するには良いアイデアです。実際にそうした英語塾も多くみかけます。
今後の展望
おそらく、リモート授業は、「授業」から離れていくと思います。
なぜなら、どう工夫したところで「授業」にはなりえないからです。
1対1の個別指導なら可能です。
むしろ、それしか出来ないと言ってもいい。
最終的には、学習相談や質問対応に特化していくような気がします。
◆機材環境
普通、リモート授業では、画面分割をしてそこに生徒を映し出して授業をすすめます。例えばzoomの場合なら最大49人まで同時に映し出せます。しかし、それだとさすがに授業がやりにくい。まあ現実的なところでいえば25人分割まででしょうか。1つは自分のカメラ、もう1つはモニター用に接続した画面(実際に生徒にどう映っているのかの確認用)とすると、実質的には23人までということになりますが、正直なところ10人を超えるときびしい。
なぜきびしいのか考えてみました。
モニターは相当大きなものを使っています。しかし、教室環境との大きな違いは、教師の視線の動きなのですね。
教室なら、たとえ40人座っていても、生徒一人一人の顔が良く見えています。全員に目配りしながらの授業が可能です。しかしモニターに映っている生徒を見ていると、どうも上下の視線の動きがやりづらいのです。横方向に視線が動いてしまうのは、人間の本能なのでしょうか。
おまけ・・・スタディサプリについて
正確にはリモート授業ではありません。授業コンテンツの配信サービスですね。
しかし、使ってみると参考になる点がいくつもあります。
◆授業は5分
この短さがいいですね。おそらくは綿密に計算し尽くしてこの時間の設定となったのでしょう。これくらいなら小さなスマホの画面でも見る気になります。
◆講師はプロ
対面のライブ授業で鍛えてきたプロ講師が講義を担当しています。さすがに話は上手です。話し方によどみなく、生徒を飽きさせないトーク力です。おそらくリモート系の授業では必須の条件なのだと思います。
◆板書は最小限
電子黒板のようなものに板書内容を映し出し、そこに教師が電子ペンで書き込みしながらすすめるスタイルですね。5分という時間を考えるとこれが理想形でしょう。時間の節約にもなり適度なライブ感も演出できますので。
◆一方通行
AIを利用して双方感を出す工夫はあれこれありますが、結局のところ講義は一方通行の配信にすぎません。でも、これがいいのです。
もう双方向の授業などという幻想をきっぱりと捨てて配信に特化する。これは最適解なのかもしれません。
◆これだけでは不足
教師の質問についてじっくりと考えたり、逆に教師に質問したり。もちろんそうした役割は期待できません。これは学校の授業・塾の授業を補完するものとして、家庭学習を効率よくすすめることのできるツールですので。
でも、そのツールとしての完成度は高いですね。