「深海魚」
いやな言葉ですね。
中学受験の世界では、「せっかくレベルの高い私立(国立)中高一貫校に進学したのに、授業についていけず同級生のレベルからはるかに遅れて成績が低迷してしまった生徒」のことを指すようです。
今回は、中1にとっての夏休みがいかに大切なのか、そして何をどう勉強すればよいのかについて考察します。
深海魚の実態
進学した学校の大学合格実績を見てみましょう。
「えっ、こんな大学?」と思えるような大学に進学している先輩が何人もいると思います。あるいは、大学付属なのに、内部進学できなかった先輩も目につくでしょう。
もちろん、その大学・学部で学びたい意志をもっての進学である可能性はあります。あるいは、勉強以外に打ち込むことを見つけたのかもしれません。
しかし、おそらくは違うでしょう。
もったいない話です。
せっかく能力にも機会にも恵まれていたのに、それを生かすことができなかった生徒たちです。
もちろん偏差値による大学の序列化の愚かさは承知しています。
それでも、自らの可能性を狭める必要はないと思うのです。
中3にもなると、生徒の学力に大きな差が開いてしまいます。
◆毎回赤点ばかりで追試・再試の常連
◆提出物を出さない、というより出せない
◆授業がつまらない、というよりわからないのでさぼってばかり
◆定期試験で平気で一桁の得点をとる
◆もしかして高校に上がれないかもしれない
◆勉強以外(遊び・ゲーム等)にしか時間を費やしていない
そんな生徒になるかどうかの分かれ道が、この中1の夏休みなのです。
夏休みで取り戻せるのか?
4月から7月まで、およそ4か月間の学校での学習が終了しました。
其の4か月の遅れを、夏休みの1か月半で取り戻そう、という提案です。
正直言って、私立中学の4か月の学習密度はそうとう濃いと思います。それをいくら朝から晩まで勉強できるとはいえ、1か月半で取り戻すのは困難です。周囲の優秀な同級生たちは、すでに4か月を朝から晩まで勉強に費やしてきたのですから。しかもこの夏休みでさらに勉強してきます。
先行を許してしまった先頭集団を追いかけるわけですので、並大抵の努力では足りない、そのことを十分に自覚しましょう。
クラブ活動・合宿・家族旅行
この夏休みはいろいろなイベントが計画されていたでしょう。
しかし、あきらめられるものはすべてあきらめてください。
一度引き離されてしまうと、追いつけなくなります。
私立中学の数学の進度・・・広尾学園の場合
広尾学園は3期制の学校です。
まず数学から、学習進度を見てみましょう。公立中の進度と最も差が開くのが数学だからです。
この学校は数学は「体系数学」を使用しています。
【数学:幾何】体系数学1 幾何編
◆1学期
第1章 平面図形
・平面図形の基礎
・対称な図形
・作図
・面積と長さ
第2章 空間図形
・いろいろな立体
・空間における平面と直線
・立体のいろいろな見方
・立体の表面積と体積
第3章 図形の性質と合同
・平行線と角
・多角形の内角と外角
・三角形の合同
◆2学期
第3章 図形の性質と合同
・証明
第4章 三角形と四角形
・二等辺三角形
・直角三角形の合同
・平行四辺形
・平行線と面積
◆3学期
第4章 三角形と四角形
・三角形の辺と角
【数学:代数】体系数学1 代数編
◆1学期
第1章 正の数と負の数
・正の数と負の数
・加法と減法
・乗法と除法
・四則の混じった計算
第2章 式の計算
・文字式
・多項式の計算
・単項式の乗法と除法
・文字式の利用
第3章 方程式
・方程式とその解
・1次方程式の解き方
・1次方程式の利用
・連立方程式
・連立方程式の利用
第5章 1次関数
・変化と関数
・比例とそのグラフ
・反比例とそのグラフ
・比例,反比例の利用
◆2学期
第5章 1次関数
・1次関数とそのグラフ
・1次関数と方程式
・1次関数の利用
◆3学期
第5章 データの活用
・データの整理
・データの代表値
・データの散らばりと四分位範囲
第6章 確率と標本調査
・標本調査(確率は範囲外)
体系数学という教材は、中高一貫校用の教材です。いわゆる検定外教科書というやつですね。私立中の多くで採用されています。
体系数学1で一般的な中1・2の内容を、体系数学2で中2・3の内容をあつかいます。もっともちょいちょいと高校1年生の数Ⅰの範囲が混ざっています。
この学校では、代数では第4章をやらないのですね。第4章は不等式で、数1の範囲だからだと思います。
幾何は体系数学1の内容を網羅しています。
私立中では、中1・2で体系数学の1と2を完了するのが標準的な進度です。
そのまま中3で体系数学3に移行するかと思うと、そこから検定教科書の数1・Aに移る学校が大半です。
体系数学のラインナップも、1・2までは問題集や参考書も充実しているのに、3からはいきなり減ります。3の内容は検定教科書も多種ありますし、問題集や参考書類も各出版社から豊富に出版されています。そもそも体系数学を出している数研出版でも、参考書ならチャート式がレベル別に充実していますし、検定教科書もレベル別に何種類も出しています。
いずれにしても、私立の進度としては、中2までの間に中学数学を終わらせて、中3からは高校数学に入る、つまり1年前倒しですすめるイメージでしょう。
夏休みに数学をどのように勉強するか?
まず、3期制なら1学期の中間・期末試験、2期制なら前期中間試験の成績を見てみましょう。
ここで注目すべきは、得点率です。
学校の定期試験は、生徒の学習の定着度をはかる目的で実施されます。したがって、授業中に教えたこと以外は出題されません。
授業にきちんと集中し、わからない問題を先送りせずに復習し、学校指定の問題集で定着をはかる。そうした学習を継続していれば、得点できないテストではないはずです。
それは、公立も私立も変わりません。難関私立は学習進度も難易度も高いですが、基本は同じです。
その定期試験でどれくらい得点できたでしょうか?
A:90点~100点
すばらしいですね。おそらく100点がとれていない場合でも、ちょっとした計算ミスや勘違いなど、「ああ、この問題できたはずなのに!」と悔しい失点だったと思います。
①体系問題集(市販)
②体系問題集:標準編 合冊(学校専用教材=配布)
③体系問題集:発展編 合冊(学校専用教材=配布)
④体系問題集 完成ノート:標準編 分冊(学校専用教材=配布)
⑤体系問題集 完成ノート:発展編 分冊(学校専用教材=配布)
⑥チャート式 体系数学(市販)
⑦体系数学 パーフェクトガイド(市販)
⑧体系数学 (市販/学校配布)
さて、⑧の体系数学がいわゆる教科書ですね。学校で配られ、授業で使っているものです。
これに加えて、④か⑤の完成ノートが配られていると思います。
Aの生徒、つまり定期試験の得点が90点以上だった生徒は、復習用に⑥のチャート式の購入をお勧めします。
もし手ににはいるなら、③の体系問題集発展編をやるのもよいでしょう。実はこれは、完成ノートと全く同じ問題がまとまっているだけです。したがって、すでに一度解いたことのある問題をもう一度解くことになります。より完成度を高める目的の取り組みですね。
どうしても同じ問題はやりたくない、あるいは入手できない場合は、一般書店で普通に売られているチャート式がおすすめです。この本の発展問題と章末問題を中心に復習するとよいでしょう。
B:70点~90点
おしいところにいますね。いわゆる先頭集団ではないものの、先頭集団のすぐ後ろにつけているイメージです。
ここから先頭集団に入れるのか、それとも遅れていくのか、まさに分かれ目だと思います。
定期試験を見てみましょう。おそらくは、解けなかった(よくわからなかった)問題がありませんでしたか?
そこが苦手分野です。
授業中の教材・ノートを利用して復習しましょう。
もちろんチャート式を購入して類題を練習するのも有効です。
C:50点~70点
まずいです。
完全においていかれそうになっています。
定期試験で6割前後の得点率というのは褒められた点数ではありません。
もう一度、全ての単元をおさらいする必要があります。
使う教材はチャート式です。
この本の例題・基本問題だけを、理解できるまでとことん復習するのです。
解法・解説ものっています。
ボロボロになるまでやりこんでください。
D:50点未満
すでに深海魚です。
おそらくは、学年の最底辺集団の一員だと自覚してください。
いったい何がいけなかったのかわかりますか?
そうですね、授業中に全く集中していなかったはずです。もしかして授業をさぼっていませんでしたか?
その学校に合格したことで、もう勉強はしなくていいと勘違いしてしまったのかもしれません。
でも、今からでも挽回できます。
夏休み全てを勉強にささげましょう。去年の受験生の夏休みを覚えていますか? あれくらいの学習密度が必要です。
勉強については、誰かの補助が必要かもしれません。
残念ながら、塾は助けになりません。
ほとんどの中学生用の塾は高校入試と定期試験対策を目的としていますので、カリキュラムが違いすぎます。また、中高一貫校生用の塾では、レベルが高すぎて不適です。
個別指導か家庭教師ということになるでしょうか。ほんとうは一番良いのは親に頼ることです。
使う教材は、パーフェクトガイドです。これを指導者(親?)に渡して、教科書を最初から丁寧に教えてもらいましょう。
そのうえで、例題・基本問題を何度も復習しましょう。