中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】6年生、塾の個別面談で志望校を下げるように言われた

夏休み前のこの時期には、受験学年の保護者の方と個別面談を実施する塾が多くあります。

6年生の学習も佳境に入り、各学校の学校説明会も行われる時期です。志望校の合否判定を目的とした公開模試も何回か実施され、データも出てきました。

このあたりで志望校を絞り込んでいかないと、夏の学習が効果的にできないのですね。

そこで個別面談です。

今回は、そんな個別面談で志望校についてどのような話となるのか、そのあたりを考えてみます。

残り7.6か月で巻き返せるか?

6月上旬から数えると、入試本番まであと7.6か月です。

中学入試のための塾通いを1年生から開始した方も多いと思いますが、入試に向けての本格的なカリキュラム学習は、4年生(新4年)からでしたね。そこから数えて36か月、これが入試までの長くて短い時間の全てです。

箱根駅伝に例えると、往路5区、復路5区のうち、今いるのは復路の9区のスタートライン、戸塚中継所あたりということになります。ここからあと44㎞走らなくてはならないのですね。

駅伝とは異なり、受験という長距離走は、たった一人で走り切らなくてはなりません。残り2区を残すこのレースで、いったいどれくらいの逆転が可能なのでしょうか?

 

正直にいうと、ここからの大逆転は期待できません。

私の30年に及ぶ経験からいっても、ここから偏差値を10以上伸ばした生徒はごく僅か、数えるほどにすぎません。

しかも、その中には4年生以前から受験勉強に取り組んでいた生徒は含まれません。

このようなケースだけでした。

帰国生

 海外に住んでいたため、系統だてた受験勉強はできていなかった。しかし、4教科の基本的なところについては、自宅で親がきちんと時間をとってやらせていたため、基礎力は備わっていた。日本に帰国して最初に受けた公開模試では惨敗する。基礎力だけでは日本の受験生と戦えるレベルではなかった。その後、日本の受験勉強の枠組みに入り、入試問題演習を中心に応用問題・発展問題に取り組む。まるで乾いたスポンジが水を吸収するがごとく、教科の学力を上げていく。最終的には偏差値50→63まで伸ばし、志望校に合格した。

※この生徒のようなケースが成立するためには、「海外でも4科目の基礎学習をやっていた」ことが必須です。帰国生に多くみられる、「英語さえできれば何とかなるでしょ」では、何ともなりません。

※偏差値30未満→偏差値40、というケースはたまにみかけます。海外で教科学習をおろそかにしていた生徒が、日本の受験勉強にどっぷりとつかったケースですね。ただし、4科目の最低ラインの学習はやっておいてもらう必要があります。現地校+日本語補習校のみ、こんなかんじだと、いくらなんでも7か月で伸ばすのは不可能です。

海外で、何も塾に通う必要はないのです。(通える範囲に塾が無い場合も多い)

ご家庭でどこまできちんと4科目の学習を進めていたのか、それがとても重要となってきます。

補習塾からの移行

今でも記憶に残る生徒です。

双子の兄妹でした。

家が首都圏でも過疎地(失礼!)にあったため、通える範囲にまともな進学塾が無かったのですね。とりあえず近所の補習塾に通っていたのです。

しかし、あくまでも「補習塾」です。小学校の勉強もままならない生徒を指導する塾なのですね。この兄妹は、中学受験、それも最難関校を目指せるレベルです。つまり、非常に優秀な子どもたちだったのです。

そのため、その補習塾の教師では、この兄妹を指導することができませんでした。おそらくは、教師の力量を超えていたと思います。だから、この兄妹は、二人で勉強を教えあっていたそうです。

そんな二人が私の教室に来るようになったのは、6年生になってからでした。

「頭はいいけれど、穴だらけだな」というのが私の第一印象です。もちろんテストの結果も思わしくはありません。

しかし、そこからのこの二人の伸びは目覚ましいものでした。とにかく、塾での勉強が楽しくて仕方がないのです。

「初めて教えてもらえた」

この言葉を聞いたとき、私も思わず泣きそうになりました。

さて、二人の学力ですが、兄のほうが妹よりも得点は上でした。兄はどこを受験しても楽勝で合格できるだけの偏差値に到達したのです。妹のほうも高偏差値に到達しましたが、不安が残ります。希望する最難関校の合格可能性は五分五分かな? とみていました。

2月1日に、二人はそれぞれの第一志望校を受験します。

2月2日が、妹のほうの合格発表です。兄も一緒に発表を見にきていました。

仲の良い兄妹なのです。何せ、今まで二人で支えあって勉強してきたのですから。

結果は、合格でした。

これは嬉しかったですね。正直妹はだめかな?と思っていましたので。

ふだん無表情の兄も、嬉しそうです。

「やったな! 明日は君の番だ!」と兄に言ったのを覚えています。

2月3日が、兄の受験校の合格発表日です。私は何の心配もしていませんでした。

しかし、結果は不合格でした。

二人そろって、第一志望に合格させてあげたかった。

未だに悔いが残ります。

兄はその後高校入試でリベンジ合格を果たしました。

実は、こういうことってあるのです。6年生の模試の成績が良くても、見えない穴がある受験生が多いのです。とくに6年生から指導した生徒に多くみられる傾向です。

授業では、テキストに載っていない多様な話をします。余談にしか思えないその話が、実は受験に重要な意味を持つのです。だから、私も意図的に話の幅を膨らませて授業を行うのはそれが理由です。

 

急に受験を決断した

それまでは、地元の公立中学→高校受験、そうしたつもりでいた生徒です。

しかし、高校受験の選択肢の少なさや、理不尽な(失礼!)内申制度の実態を知ったのです。また、中学生になったらやりたいクラブ活動もでてきました。

これは、高校受験を回避するしかない! そう考えたのが、6年生になってからです。

中学受験の世界では遅すぎる判断ですが、両親とも地方出身の場合はよく話にきくケースです。

この生徒の場合は、別に勉強をやらせていなかったわけではないのです。中学生になってから困らないように、早くから塾にも入れ、4科目の教科学習をきちんと行っていました。さらに幼少期より英語もそうとうやらせていたそうです。

しかし、公立中学進学を前提とした塾の教科学習は「ぬるい」ものです。中学受験生とは量・質ともに比べ物になりません。最初に受けた公開模試の結果は惨憺たるものでした。そこから必死の努力がスタートします。続けていた英語塾も辞めました。すでに英検準2級はもっていて、2級をめざしていたのですが、それどころではない、という判断です。この判断ができるのが素晴らしいですね。どうしても続けていた習い事というのは、「せっかくここまで続けていたのだからもったいない」という判断をしがちなのです。まして英語は、中学生になっても重要教科ですし、今後の人生にとっても大きな武器となる学習です。とくに英検を受ける子の中には、親が「英検信者」となってしまう場合が多いのです。小学生のうちに少しでも高い級をとらせるために必死となってしまうのです。しかし、普通レベルの中高一貫校生なら、中学生になってから本格的な英語の学習を始めて、中1で3級、中2で準2級、中3で2級、といった生徒が普通にいるのです。それを前倒しで取得することにさほどの意味はありません。その判断ができたのがこのご家庭の素晴らしい点でした。

最終的には、Y-N偏差値60前後の大学付属校まで届いたのです。偏差値的には12くらい伸ばしたと思います。

この子の勝因は2つです。

 〇基礎学力が備わっていた

 〇受験に不要なもの(例えば英語)は切り捨てた

たとえ中学受験をしなくとも教科学習は大切である。このことをわかっていたご家庭なのが大きかったですね。

 

さて、偏差値を10以上伸ばしたケースをご紹介しました。

お子さんは上記のようなケースに該当するでしょうか?

もし4年生以前から中受塾に通い、それなりに時間を費やして勉強していて今の状態だとすると、ここから10以上伸ばすことは不可能です。

ここから目指すべきなのは、

 〇今より下げない

 〇今の成績を安定させる

 〇今より少しだけ(偏差値的に2ポイントくらい)上げたところで安定させる

 〇現状の学力に志望校にフィットした学習を加える

こうしたところだとお考えください。

 

志望校を下げるように言われた

 その塾の先生が、どのような根拠でそう言われたのか考えましょう。

成績が届いていない無理筋な志望校を指摘した

すばらし先生だと思います。

我々も、これが一番言いにくいことなのです。

N-Y偏差値で40前後なのに麻布を受験する。

そう云い張る親に、「受かりません。志望校を下げましょう」とはなかなか言えないですよね。誰だって悪者にはなりたくありませんから。

それなのに志望校を下げるように指摘してくれた先生には感謝するべきだと思います。

プロとしての判断だったのでしょう。

ここは素直に、目指すべき学校のアドバイスについて耳を傾けましょう。

 

頑張れば届くと思っていた志望校を下げるよういわれた

親と塾との考えが異なる、というより、妙に安全志向の教師というのがいるのです。とくに、若い先生(せいぜい経験年数5年以内?)にその傾向が強いように思えます。

正確には、「若くて真面目な先生」です。

進路指導面談というのは、我々の仕事の中でも非常に負荷のかかる業務です。

もしチャレンジさせて不合格だったらどうしよう?

どうしても脳裏にそうした考えが去来します。

「〇〇中学は合格します。ぜひ受験しましょう。」といって不合格だった場合と、

「〇〇中学は受かりません。志望校を△△中学に下げましょう」といって△△中学に合格した場合と。この2パターンでは、塾の教師の責任としてはどちらがより糾弾されるか、そんな姑息な計算が働きます。

そこで、ついつい安全策をすすめたくなるのです。

プロとしての最適解としての志望校変更ならまだしも、単に保身のための変更なら嫌ですね。

ただし、若い先生でも、研究熱心な先生もいます。また、まともな塾なら、面談前に、生徒の担当教師全員が集まって、志望校の組み立てについて打ち合わせを行っているものです。そこで出された総合的な見解を、たまたま面談担当だった若い先生が口にしているだけ、そういう場合もあります。

行きたくもない学校の受験をすすめられた

これは要注意です。

その先生が、何を根拠としてその学校をすすめているのか?

もしかして、そのお子さんにぴったりの良い学校だから、という理由かもしれません。塾の教師の中には、生徒の性格まで見極めて指導できる先生もいますので。

でも、もしかして塾の合格実績稼ぎかもしれません。

塾の中には、「合格率100%!」なんてことを売り文句にしているところがあるのです。

その中学校を受験した生徒が全員合格した! という自慢(宣伝)です。

しかし、この数字は危険な数字です。

もうわかりますね。

合格可能性が低い生徒を受けさせなければ、いくらでも100%に近づけることができるのです。つまり、操作が可能な数値なのです。

そんな塾のくだらない宣伝のために、志望校を下げさせられたらたまったものではありません。

お通いの塾がそのような宣伝を行っていた場合は気を付けましょう。

 

今ためしに「中学受験 合格率 100%」で検索してみると、多数の塾がヒットしました。私の知らない塾ばかりです。世の中には生徒を第一志望校合格まで導いてくれる素晴らしい塾がたくさんあるのですね。私はこの業界に長くいすぎて「業界の闇」に詳しくなりすぎたのでしょう。

 

私ならこうお話する

個別面談の前に、志望校についての調査用紙に記入していただくのが通例です。

それを見ながら、どのようにお話をするべきか、学校情報についての下調べもするのです。

例えば、こんなケースではどうでしょうか。

【ケース1】城南地区男子

〇直近の模試3回の平均偏差値がN64

1/20・・・市川(N65)

1/22・・・渋幕(N69)

2/1・・・開成(N72)・PM広尾学園(N66)

2/2・・・聖光(N69)・PM広尾学園(N66)

2/3・・・筑駒(N72)

    海城(N67)

2/4・・・聖光(N69)

2/5・・・渋谷渋谷(N69)

事前に提出いただいた志望校のラインナップはこのようになっていました。

正直いって、全滅コースです。

さすがに 広尾学園は大丈夫かと思いますが、この学校については何ともいえません。なにせ1回の募集定員が少なすぎて番狂わせが起きやすいのです。そもそも日能研の偏差値表で2月1日午前の偏差値が駒東と同じになっています。さすがに東大実績が9名の広尾学園と、44名(去年なら72名)の駒東が同じ学力レベルとは思えません。広尾学園は人気が集中しすぎなので要注意です。

また、1月に千葉の学校を2校受験予定ですが、城南エリアから通学が可能なのか、確認が必要ですね。

また、開成・筑駒・聖光と、男子校志向が強いと思うのですが、午後入試の広尾と、2/5の渋谷渋谷の位置づけも不明です。

この子の場合は、面談は以下のような点を中心に進めます。

◆1月の市川・渋幕は、合格したら入学金を納めて手続きをするのか=進学の意志があるのか?

広尾学園は進学したい学校なのか?

◆渋谷渋谷は進学したい学校なのか?

◆1日と2日の2連続で午前・午後入試を乗り切る体力はあるのか?

◆どこが本当の第一志望校なのか=どの学校ならあきらめられるのか?

 

さて、話をうかがうと、千葉の2校については進学の意志はないことがわかりました。遠くて通えないそうです。また、広尾学園については、午後入試で他に受けられそうな学校がなかったから書いたということでした。合格してもたぶん通わないそうです。渋谷渋谷については、親は気に入ったが、本人は共学は嫌だといっているそうでした。

本当の第一志望校は筑駒だそうです。しかし、さすがに筑駒は無理だろうということで、一応出願して、渋幕に合格できればチャレンジしようと思っていました。開成と聖光は、どちらも気に入っていて、合格できればどちらも進学したい学校だけど、距離的には聖光のほうがいいと思っている。そんな話を聞き出したのです。

また、公立中は考えていないということでした。

そこで、私がおすすめする受験校の組み立てはこのようになりました。

1月・・・受験しない。体力・時間の無駄遣いなので。

2/1・・・駒東、ただし成績が伸び悩んだ場合はサレジオ学院に変更

2/2・・・聖光

2/3・・・駒東orサレジオが合格していたら筑駒。合格していなかったら浅野に変更

2/4・・・合格がとれていれば聖光、とれていなければサレジオ

2/5・・・本郷or都市大付属

今の成績水準では、筑駒は無理でしょう。そもそも日能研のテストでは判定精度が高くはありません。サピックスの模試の受験をおすすめしました。

開成をやめて、聖光の受験にシフトします。そのかわり、1日には合格可能性を追求するという作戦です。いちおう現時点では駒東をあげておきましたが、聖光にこだわると、2/2と2/4の二日間がとられてしまいますので、1日に確実に合格できることを本当は優先させたいところです。

私の見立てでは、実力適正校は浅野です。駒東に合格できれば上出来といべきでしょう。サレジオは少し下げた感じになりますが、先頭集団に入れるかどうかというと難しいでしょうね。2番手集団からのスタートとなると思います。

 

【ケース2】中央線沿線女子

〇N偏差値58

1/14・・・浦和明の星(N74)

2/1・・・吉祥女子(N62)

2/2・・・豊島岡(N67)・PM香蘭(N62)

2/3・・・豊島岡(N69)

2/4・・・豊島岡(N69)

2/5・・・洗足(N64

これもなかなか厳しいラインナップです。

とくに豊島岡。ここにこだわると、2/2・3・4の3日間の日程がとられてしまうのです。この場合、1日の受験校のチョイスが肝ですね。

うかがってみると、一番行きたいのは豊島岡だそうです。次が吉祥女子、なにせ近いですから。そして浦和明けの星は、武蔵野線を使えばそんなに遠くないのでもし合格できたら進学してもよいと言っていました。ただし、吉祥女子>浦和明の星だそうです。

この生徒の場合は、1月の浦和明の星が合格すれば、あとは思う存分豊島岡の受験で問題ありません。しかし、1月の浦和明の星は難しいですね。

そこで、こうしました。

1日の吉祥女子が合格(当日発表)していたら、豊島岡を3連発。もし不合格だったら、2日にもういちど吉祥女子を受験し、午後は香蘭を受ける

そこが不合格だったら、3日は大妻を検討。

そこが不合格だったら、4日は成蹊・山脇・普連土を検討

5日は頌栄も検討

つまり、どこかの学校で合格がとれるまでは豊島岡を回避するという作戦です。

正直いって、今の豊島岡は難しいですね。吉祥女子や香蘭に受からないレベルの子では合格は見込めないといってよいでしょう。

しかし、豊島岡への強い希望を偏差値だけで無視したくはありません。とにかく1日の吉祥女子の合格が最大の焦点となります。そこを万全にすることが、豊島岡を受験できる条件であるとお話ししたのです。