中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

【中学受験】2023年・2024年入試問題にみる、跡見学園の入試制度改革と可能性(※2024.12.12加筆修正)

1特待入試の思考力問題からわかる学校の求めるものとは

跡見学園特待入試の思考力問題を見てみました。
 この試験は、2月の4日に英語のコミュニケーションスキル入試と同時に実施されます。この試験が設定されている学校側の意図を、募集要項からさぐってみましょう。
 

 募集要項からわかること

まずは、跡見学園のHPを見てみましょう。

www.atomi.ac.jp

特待入試の思考力問題と英語コミュニケーションスキル入試は、どちらも漢字と計算が出題されています。

思考力入試のほうには本語の思考力問題が、英語コミュニケーションスキル入試のほうは面接・筆記などが実施されます。

 募集要項には本の小学校卒業見込みと同等の学力がある者、とあるので、帰国生も視野に入れた入試と思われます。

 12月の帰国生対象入試と合わせて、帰国生には2回のチャンスがあると考えてもよいでしょう。

 また、都立中高一貫校の受験生には合格後の学費納入延期の特典もあるので、適正検査型の対策しかしてこなかった生徒もとりこもうとしていることがわかりますね。

 

跡見学園という学校

 跡見学園といえば、歴史が古い学校として知られています。

 1875(明治8)年の創立です。

 その5年前には女子学院フェリスが創立し、最古の女子校としてはこちらになりますが、ミッション系以外の学校としては跡見が最も古い学校です。

 しかし現在の跡見はそうした古さを感じさせません。

 8年ほど前に制服もリニューアルし、

制服 | 校章・校歌 | 学校紹介 | 跡見学園中学校高等学校

  校舎も円形の吹き抜けを囲むように教室が設置されて開放感があります。

 学校HP内に、学校紹介動画がありますので見てみてください。

跡見学園中学校高等学校 - YouTube

 茗荷谷護国寺を最寄り駅とする都心の学校ですが、近隣にはお茶の水女子大や筑波大附属高校などがある文教地区です。

 グラウンド・屋内温水プール・体育館・講堂なども充実しています。

 もっとも、学校選びの条件として「プールがないこと!」をあげる女子生徒もいますので、そうした生徒は選ばないかな?

 

大学入試に向けた学内の改革も進めているようで、入試問題からもそのことがうかがえます。

 

なお、2月1日の偏差値を見てみると、S-31、N-44、Y-43となっています。

また、大学合格実績をみてみると、早慶は9名、上智4名、GMARCH39名となっていました。ちなみに併設の跡見学園女子大には28名です。

 正直いって、国公立・医学部・早慶レベルを目指す学校ではありません。この学校の価値はそこにはないと思うのです。気になる方はぜひ一度足を運んでみてください。149年の歴史はあなどれないなあと思います。

現在の松井 真佐美校長先生は跡見中高のご出身です。一度お会いする機会があったのですが、とても上品かつ優しそうな方でした。

 

2023年の出題


大人になること」をテーマとし、短い動画を見たあとに、資料の読み取りやグラフ作成などがあり、いくつかの記述問題が出題されるという形式でした。 

 解答用紙を見ていただければわかるように、完全な記述のテストです。

 

問6 「(お金を自分で稼げるようになったら、大人だと思うという文中の言葉をうけて)『お金を稼ぐ』ことと『経済的に自立している』こととの関係をふまえて、さくらさんがこの言葉に納得できる気もするし、納得できない気もする理由を考えて説明しなさい。

 

 さて、どのように記述を組み立てればよいのでしょうか。

 ①お金を自分で稼げる=経済的に自立している

 →経済的に自立していれば、親や他人の指示に従う必要はない

 →したがって自立した大人だといえる

 

 まず、最初はこのように考える生徒が多いと思います。

 登場人物の「さくらさん」が、「納得できる気もする」根拠ですね。

 

②お金を自分で稼げるだけでは経済的に自立できるとはいえない

 →大学生のアルバイト程度では自立するには不十分である

 

文中に「姉のももこさんはアルバイトをしているがお小遣い程度の金額しか稼いでいない」という例があげられており、それをそのまま利用するとこのような解答の流れになるでしょう。

 

おそらくは、問題文の例に引きずられてこのように答えた受験生も多いのではないでしょうか。

 

「納得できない気もする」根拠の説明として間違ってはいませんが、この問題の出題意図からすれば最も幼稚な答といえます。

 

③経済的に自立しても、大人とはいえない

 →なぜならば、大人とは、良識をもち自分の責任を自分で負える精神的な自立を必要とするからだ

 

おそらくは期待されている解答はこれだと思います。

しかし、ここまで思考を展開できる受験生はほとんどいないのではないでしょうか。

 おそらくは、受験生に少しでも空欄を埋めてもらうためのヒントとして②の例が挙げられているような気がします。その上で、②の流れで答えを書いても〇をもらえるということになるのですね。

 

問8 跡見学園では、中学と高校6年間の在学中に、自分がなりたい大人のペースを自分の中に作ってほしいと考えています。あなたは今、どの程度自分を大人だと感じますか。解答らんの目盛りの上部に〇印をつけて示しなさい。そして、18歳になったときにはどの程度大人と思えるようになりたいですか。目盛りの下部に☆印をつけて示しなさい。さらに、あなたが記した〇印と☆印が一致していない場合は、〇印と☆印の関係はどのようになっているのか、そしてどうしたら☆印に近づくことができるのかを考えて説明しなさい。もし、〇印と☆印がまったく一致している場合は、その理由を答えなさい。

 

ほとんど自由作文のような記述問題です。

 

もちろん正解などありません自己分析と将来のビジョンについて、論理的にきちんと説明できるかどうかが問われているのです。

 

ここで注意があります。

〇印と☆印が完全に一致している場合というのは、すでに自分は大人であり6年後も同じということになります。

あるいは、今自分は子供で、6年後も子供のままであるということでしょうか。

いずれにしても、このように印をつける受験生はいないと思います。6年間の学校での成長を真っ向から否定するようなものだからです。

 

 ここはオーソドックスでいいのです。

 

自分はまだ子供だが、6年間の学校の学びでこれくらいまでは大人に近づきたい、そういう内容を具体的に書けばよいのですね。

 

 

 

 

2024年の出題

 

「お弁当」がテーマです。

お弁当・昼食に関する画像と質問が2分間映し出された後、設問に答えていきます。

 

問4 アメリカ・フランス・マレーシア・ロシア・日本の学校の昼食状況の表を見て、情報を整理させる問題。そのようにグループ分けした理由も答える。

 

これはかなりの基本問題です。

 

問5 「フランスとはちがって、日本の学校では一度帰宅して昼食を食べることは一般的ではありません。もし、跡見学園中学校でこの制度を取り入れるとしたら、世の中の仕組みを含めてどのような点を変える必要があるでしょうか。最も重要だと思われる点を3つ挙げ、それぞれ説明しなさい。

 

この問いは少々乱暴な問いですね。

電車で1時間以上もかかる遠距離からも通学している私立中で、一度帰宅して昼食を食べることはほぼ不可能だからです。世の中の仕組みをどう変えても無理です。

その無理を可能にするのにはどうしたらいい?

これが聞きたいのでしょう。

論理的に考えて、学住近接を実現するしかありません。

①学校から徒歩圏内の生徒しか受け入れない

②学校から徒歩圏内に家族で住まわせる家族寮を完備

③各家庭の徒歩圏内にサテライトオフィスのような分校を多数設置する

④完全オンライン授業に切り替える

そんなあたりでしょうか。

 

問6・7 弁当の歴史についての表を整理させる

「情報」教科の影響を感じさせる出題です。

表の内容そのものに疑問がわく表が出題されています。例えば、弁当箱の素材を時代ごとにまとめた表には、プラスチック弁当容器が明治時代から使用されているとなっています。

世界初の実用化されたプラスチックは「セルロイド」です。

1870年に、ビリヤードボールの象牙の代替品として実用化されました。

日本では1900年代に入り輸入が始まり、1910年頃に国内生産が行われるようになりました。

セルロイド以外のプラスチックでは、1907年にアメリカで「ベークライト」が発明されましたが、これは工業用の絶縁材料として使われます。

セルロイドが明治時代に弁当箱に使われていたのかどうかは、いくら調べてみてもわかりませんでした。

私の直観ですが、使われていなかったと思います。

少なくとも一般に普及したとはとても思えません。

すでに弁当箱としては、曲げわっぱや漆塗りの重箱が存在しています。この時代の弁当といえば握り飯が主流だったはずですので、日常的には竹の皮に包めば間に合います。

わざわざ高価なセルロイドで代替する理由が無いのです。

象牙の代替品としてセルロイドが作られ、絹糸の代替品としてナイロンが発明されたように、工業製品の「置き換え」がすすむのには、コスト上か性能上の強力な根拠が必須です。

セルロイド弁当箱にはそれがありませんから。

 

軽量化・耐久性という観点からは、やがてアルマイト弁当箱が軍用として普及しますので、ますますセルロイドの出番はなかったはずです。

 

問11 冷凍ハンバーグと手作りハンバーグの材料・調理時間の表を見て、「あなたなら弁当のおかずにどちらのハンバーグを選びますか。選んだ具体的な理由も答えなさい」

この問題もまた乱暴な出題です。

なぜなら、冷凍ハンバーグの材料には、多種多様な食品添加物が列挙されているのですから。

あきらかに受験生を「誘導しようとしている」問題です。

おそらく出題者は、「お母さんの手作りハンバーグ」推奨者なのでしょう。

そこをあえて「冷凍ハンバーグ」を選ぶのなら、女性の社会進出による弁当作りの役割分担や、自分の弁当は自分で作るという意志をもって時短を選ぶことについて、相当な論陣を張る必要がありますね。

 

問12 「友達と一緒に楽しく食べることを一番大切にしたいと考えた」さくらさんの意見について、あなたはどのように考えますか。あなたの意見を理由とともに述べなさい。

 

これも強引な出題です。

どう考えてみても、「友達と一緒に楽しく食べることが一番大切」に決まっているからです。

これに反論できるはずもありません。

 

「あなたの意見を理由とともに」述べさせたい出題は、賛否両論あるいは多様な意見が成立する命題でなければ成り立ちません。

 

例えば、「核兵器の使用は絶対にあってはならない」という考えについて、あなたの意見を理由とともに述べなさい、そんな出題と同じです。

「その通り」以外に書きようがありません。

 

おそらくは、ここは素直に、「学校におけるお弁当タイムは友達との大切なコミュニケーションの時間である」的なことを書いてほしいのでしょう。

 

 

 

 

 冒頭に申し上げたように、跡見学園は様々な学内改革の過程にあります。

 多くの伝統女子校は生徒募集に前向きです。

 歴史と伝統にあぐらをかいているだけでは、もはや生徒は集まってこないのです。

 きちんとした教育を外部に発信し、目に見える形で子供の成長を保護者に提示し、その上で大学進学やその先の未来を確実なものとしていく。

言葉でいうことは簡単ですが、スローガン一つで何とかなるようなものではありません。

跡見学園においても、入試制度の改革によって可能性のある多様な生徒を集めようとしているのでしょう。

今後も大きく入試制度が変わる可能性がありますので、志望する場合は学校側の発信する情報に注意する必要がありますね。