※この記事の初出は2023.11.10です。2024.10.27にUPDATEしました。
今回は、教育におけるデジタル化の是非について少々考えてみたいと思います。
現状
教育におけるデジタル機器の導入がすすんでいます。
おそらく、どの中高も(小学校でも)、全教室にプロジェクターくらいは設置してあるでしょう。
◆黒板横にプロジェクター用スクリーン
◆プロジェクター
◆教師机横に書画カメラ
ここまでは標準装備ですね。
講師の手元の資料をスクリーンに映し出す、そうした使い方を普通に行っています。
私が拝見した某私立小学校の授業では、板書の替わりにプロジェクターを使っていました。
さらに、もう少しお金をかけた教室では、大型モニター(60インチ以上)がプロジェクター&スクリーンの替わりに設置されています。
どう考えても、昼間の教室ではプロジェクターよりモニターのほうが見やすいにきまっていますので。
80インチ程度のモニターは珍しくなくなりました。
こうなると、操作のためには、教師側にPC環境が必須となります。
なぜかノートPCしか見かけませんね。
別に持ち歩く必要はないのでデスクトップPCの方が使いやすいと思うのですが。
さらに、電子黒板の設置も見られます。
「わが校は教育DX化を進めています」アピールができる最適なツールだからでしょう。
使いこなせれば便利なツールだと思います。
生徒に、iPad等タブレット端末を一人1台持たせるのはもはや常識のようですね。
学校によってはノートPCかもしれません。
使い方としては、Googleclassroomとロイロノートが一番普及していると思います。
問題点
そもそも文部科学省は「教育DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進」に積極的ですし、政府にしてもGIGAスクール構想の実現に前のめりです。以下の政府のポータルサイトを見ると、そのあたりが詳しくまとまっています。
教育におけるデジタル機器の導入がすすんでいます。
そもそも文部科学省は「教育DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進」に積極的ですし、政府にしてもGIGAスクール構想の実現に前のめりです。以下の政府のポータルサイトを見ると、そのあたりが詳しくまとまっています。
「GIGAスクール構想など教育のデジタル化の推進に向けた政府全体の取組について」
https://cio.go.jp/sites/default/files/uploads/documents/210701_01_doc01.pdf
それを受けて、民間でも様々なデジタルツールが開発されています。私も毎年ビッグサイトで開かれるEDIX東京という展示会に足を運ぶのですが、まあ凄い熱気ですね。
この展示会は、小中高大の先生方に加えて、塾・予備校関係者も対象としています。そこに集まる企業というのは、いわゆるICT機器のメーカーばかりか、オンライン教育支援・学校の業務支援・塾の業務支援等の会社等、まあ、教育とデジタルに少しでも関連する会社が数百社集結しています。こうした展示会に参加された経験があるとおわかりだと思いますが、ちょっと会場を1周しただけで用意した名刺が一箱なくなり、両手は資料の入った重い袋でふさがります。一般入場者は5000円くらいとられるようですが、払っている人はいないのじゃないかな。皆招待券です。さらにVIP招待券という、ある基準以上の役職者に届く招待券をもっていると、有料セミナーが無料になったり、無料ドリンクのある特別な休憩室が使えたりします。そんな名札を下げてぼんやり展示を見ていようものなら、凄い勢いの接客につかまり、いつのまにか商談ブースに案内されたりもするのです。高い出展料を支払って参加している企業にしてみれば、一つでも多くの商談をまとめたいのですから当然ですね。
毎年私は微かな期待を胸に足を運ぶのですが、1日かけて会場を見て回っての帰り道は、期待はずれでがっかりとした失望感で、棒になった足の疲労感が増すばかりなのです。
私が期待する物は、この2つです。
(1)私が思いつきもしないような斬新かつ画期的な教育のアイデアと、それを具現化する道具
(2)私が抱えている教育上の問題点を解決する道具
いくら会場を歩き回ったところで、どちらにも出会えませんね。
〇電子黒板の進化系
〇タブレットを使った学習アプリ
〇リモート授業のツール
〇成績表や座席表作成ツール
〇プログラミングのツール
まとめてしまえば、こんなものしか見かけません。
そして、どれも私には「高い費用」をかけてまで導入するメリットが見いだせないものばかりです。
例えば、電子黒板について。すばやく直線や図形がきれいに描けたり、写真を表示したりできるそうなのですが、それがどうした?というかんじです。普通の黒板にチョーク、そして資料集やスライドで間に合います。わざわざ黒板をデジタル化したメリットが「すばやくきれいな直線が描ける」程度では、何のメリットもかんじませんね。私も大量の板書をするのが面倒くさいときには、ホワイトボードにプロジェクターから板書を映し出したりすることもありますが、それで物凄く学習効率がUPする、といったほどではありません。腕がちょっと疲れなくてすんだ、それだけです。
タブレット学習についても、従来の紙と鉛筆に取って代わるほどの優位性はありません。むしろタッチペンを使うと「より書きにくく」なり、より「字が下手になる」だけです。
おそらくは、従来のアナログでは不可能だったのは、リモート授業くらいじゃないでしょうか。それについても、特別な道具など不要です。教師・生徒それぞれにネットに接続されたノートPCが1台あれば、それで間に合ってしまいます。
×あれば便利かもしれないが、なくても困らない
×高い費用にみあった効果が感じられない
×授業準備や使いこなしに無駄な時間がかかる
こんなものが並んでいるのが、こうした展示会なのです。
では、どうしてこんなにも盛況なのでしょう?
会場に足を運ぶユーザーは先生方など教育関係者です。
◆時代に取り残される焦り
◆予算を消化する必要性
◆生徒募集に有効
これが理由でしょうね。こうした目立つ機器は、生徒募集に有効ですから。私が訪問したことのある新興の学校は、3Dプリンターがずらりとならんだ部屋が自慢でした。教育内容ではなく、設備に惹かれる層というのはいるのです。
また、出展企業は教育機関ではないところがほとんどです。「今実践している教育で不足している部分をこれで補える!」という思いではなく、「何かデジタル系でこういう物が作れたから、学校に販売したら儲かるんじゃないか?」というくらいの理由でいることが見え透いていますね。
誤解なきよう言っておくと、私はアナログ人間ではありません。PCも自作しますし、インターネット勃興以前のパソコン通信(古っ! 皆さん知らないですよね)時代から海外の情報を直接入手して教材作成に反映させたりもしていました。生徒の成績管理もエクセルに自分で関数を組み込んで自動化しています(だから効果な管理ソフトに興味がわかない。だって自分の作ったもののほうが優秀なので)。iphone/ipadも新製品が出ると買いたくなる困った性分でもあります。本当に便利ですよね。
でも、こと授業に関しては、アナログが一番だと思うのです。
教師と生徒が向き合う授業というスタイルには、どうにもデジタル機器は相性が悪いとしか思えません。
服をチョークまみれにしながら、あるいは手をホワイトボードマーカーで汚しながら、熱をこめて授業をするのが一番好きですし、生徒の学力向上が一番実感できるのもこのスタイルなのです。リモート講座にしても、最初のうちは張りきって、クロマキー用のグリーンバックの前に座り、複数の画像を切り替えながら背景に板書や写真を映し出して行っていましたが、今は、ホワイトボードの前に立ち、書画カメラと正面カメラの2台だけのシンプルな構成でやっています。
生徒と教師の間に介在する物が少なければ少ないほど、授業の効果が高まるのは間違いありません。
私のこの保守的な考えを根底からひっくり返すような物があるかも、という微かな期待を抱いて、また来年もビッグサイトに足を運ぶのでしょうね。
アナログの極致、ホワイトボードについては以下の記事に詳しく書きました。よろしかったらどうぞ。
おまけ 生成AIについて
今、学校教育の現場では、生成AIをどう受け入れるのかについて試行錯誤が続いています。
それを受け、昨年あたりから入試にもずいぶん取り上げられるようになりました。
おそらくは、本音でいえば学校の先生方としては受け入れたくはないのだと思います。
◆生徒の思考力を奪う
◆生徒の分析力を奪う
◆手抜きして答えを出そうとする姿勢がはびこる
◆まだまだ信用できない
ざっとこんなところでしょう。
実際に使ってみると、その高い能力には驚かされますが、まだまだ正解を出す能力には達していません。平気で嘘をつく、そういう印象です。
もちろん急速に進化中ですので、この弱点などすぐに消えることでしょう。
個人的には、「まだ教育への導入は早いかな」と思っています。
とくに、中高生までは使わせるべきではないと思います。
なぜなら、AIが導き出した答え(のようなもの)の真贋を見抜く能力がないと使いこなせるはずもないからです。
そして、中高生の時代は、その能力を育てる時期です。
もう少し様子見したいと思います。