※この記事の初出は2023.11.03です。2025.02.16にUPDATEしました。
今回は小規模な塾を一つとりあげてみます。規模の小さな塾は多数ありすぎて、なかなか紹介する機会がないのですが、一つの参考としてお読みください。
※いつものように、私の完全な私見ですので、特定の塾を持ち上げる気も貶める気もありません。
啓進塾について
この塾については、以前から知ってはいたのです。この塾と同じ駅にある別の塾の先生から、「最近生徒をとられるんだよね。実績も悪くないようだし。困った困った。」と愚痴を聞かされたり、「この塾のおかげで希望の中学校に受かった!」と喜ぶお母さまの話を聞いたり。まあ私の中では、小規模ながら頑張っている塾、そんな認識でいたのです。ところが数年前に、この塾に子供を通わせていた保護者の相談を受け、印象が少し変わってきました。
啓進塾は、1986年、曽根嘉浩氏によって金沢文庫で創立されました。現在はたまぷらーざ・日吉・金沢文庫・川崎・戸塚の5教室のみ、神奈川に展開しています。小規模と中規模の間くらいの塾ですね。「啓」の文字に何となく見覚えがあるなあと思っていましたが、啓明舎という塾の成功にあやかって1文字もらったと聞いて納得しました。啓明舎という塾についても書きたいことはありますが、後日に回します。創業者の曽根氏は4年前に亡くなっていますが、指導方針が今後どう引き継がれていくのかは注目したいところですね。
HPによると、教育理念が明記されていました。塾で理念をうたったところはたくさんありますが、その理念が本当に塾の指導に具現化しているかはわかりません。口先では「生徒の自主性が大切」などと言いながら実態はただのスパルタ塾であるなんてよくある話です。
さてこの塾はどうでしょうか? 小規模ながら35年以上続いているのですから、それなりの理由があるとは思うのですが。HPの文言を一部紹介します。
「啓進塾は中学受験を専門とする進学塾です。・・・それでは、いったい何が啓進塾と他塾で違うというのでしょうか。
その1「勉強は楽しいからやる」
その2「賢くすること」・・・とにかく「なるほど、そうか!」と感動を持って学ばないことには、賢い頭にはならないし、そのためには何より学ぶことが好きになる必要があるのです。
その3「子どもを賢くする講師」
勉強は楽しいからやる!
学ぶことは楽しくて当たり前!
もし子どもが勉強が嫌いというのなら、それは教える教師の責任である!
この言葉を講師一同胸におき、お預かりしたお子様を全力で育てることを誓いたいと思います。」
だいぶ割愛しましたが、このような内容でした。
少々理想主義に走り過ぎな気もしますが、しっかりとした理念をお持ちのようですね。
ただし個人的には、「つらくなければ勉強ではない」と思っています。楽しくこなせるレベルの勉強では負荷が足りないというのが私の考えです。
合格実績
HPより合格実績を見てみると、このようになっていました。
過去5年間で2桁合格者がいた学校に、参考までに最難関校と人気校を入れてあります。
今年(2025)の合格実績が伸びたのか減少したのかの判断は難しいところです。
規模がこれくらい小さな塾(卒業生が400名程度)び場合は、年によるブレというか、たまたま優秀な生徒が数名入ってきただけで合格実績は大きく変わるからです。
そこで、過去5年(2020~2024)の実績の平均を計算し、そこから20%以上合格者が増えた場合は数字を青
字で、20%以上実績が減った場合は数字を赤字で示しました。
ほとんど神奈川の学校ばかりですね。
合格者の公表については、合格者1名の学校まできちんと載せているところは好感が持てます。ここを割愛する塾は多いですから。また、2012年までさかのぼって掲示されているのもなかなかです。2012には、
麻布 22
浅野 43
栄光 18
聖光 23
逗子開成 62
となっています。
今より優秀な男子が集まっていたようですね。
一般に塾選びの王道としては、その塾の生徒が多数合格している学校を志望しているかどうか、という目安があります。
(ただし1月校は除く)
たとえば5教室で毎年合わせて5名程度しか合格していない学校を目指すとすると、単純に考えて、1教室から1名程度しか毎年合格者が出ない学校ということになります。
そうすると、塾および教師にノウハウが蓄積できないのです。
大手模試の成績や合格可能性の数値を見ての進路指導など誰でもできます。
「合格可能性は20%と低いが、去年や一昨年の受験生と比較すると、十分合格が見込める」などといった指導は、多数の同レベルの生徒の合否を見て来た経験が無いと難しいのですね。
そう考えると、例えば「関東学院」や「神大附属」「山手学院」や「逗子開成」などを志望校とするのなら選択肢となりうる塾だと思いますが、「開成」や「桜蔭」「慶應普通部」などを志望する場合なら、他にもっと合格実績が高い塾と比較しながら慎重に検討すべきでしょう。
指導スタイル
ただし、指導スタイルは独特というか、癖がありますので注意が必要です。
以下は数年前の在籍生の親から直接うかがった話です。
◆6年生はほぼ毎日拘束される
◆夏期講習もほぼ毎日。たまの休講日も補習で呼び出される。
◆テキストは手作りプリント中心。予習シリーズを少し使う。
◆過去問演習は採点のみで解説しない
◆外部模試は任意で受験する
◆進路指導は塾内のテストと過去問の得点、教師の経験のみで行う
ということなのだそうです。
もちろんこれは「たった一人」から聞いた話なので、「常に全員に対して」こうした指導方針なのか、「たまたま一人だけが」こうした指導を受けただけなのか、あるいは「何らかの勘違い」に基づく情報なのか、そこまではわかりません。
なんだか昭和の香りのする塾ですね。私が学生時代にアルバイトをしていた塾もそんなかんじでした。ただし過去問の解説はきちんとやり、もっと塾とご家庭の距離感が近くて面倒見もよかったですが。受験が終わった後、卒業生たち(&母親数名)と一緒に泊まりでスキーに行った思い出があります。
さて、相談をうけたそのお子さんは、成績が低迷していました。何年も通っていたわりには、基本的な知識等に問題があったのです。これは、子ども本人のせいなのか、家庭のせいなのか、あるいはその両方なのか。判断は難しいですが、私に言わせれば、完全に塾の責任だと思います。我々はそのためにお金を頂戴しているのですから。子どもに知識の定着を促したり、ご家庭と密に連携しながら学習をすすめるのもまた塾の役割です。拘束日数・時間が長い塾の場合は、自宅学習での穴埋めが困難ですので、早い段階で塾に相談をするか、あるいは転塾の決断が必要だと思います。
こちらの塾で一番気になったのは進路指導のスタイルです。HPに出ている文言をそのまま引用します。
「模擬試験は基本的に、首都圏模試とサピックス模試に希望者のみ参加しています。目的は、「外部試験を受け緊張感を味わう」というものだけになります。したがって模試の結果から、志望校への合否の可能性を探るということは一切しません。進路指導の中心は、講師の経験による見立てと、6年次に3回受けていただく志望校判定模試と、過去問題の得点力による裏付けとなります。特に、過去問題の得点力をもとに進路指導を行っていることが、模擬試験の判定にくらべ、はるかに精度の高い合否判定につながっていると考えます。」
模試の結果ではなく過去問の得点力を重視するというのは、私としてもうなずけるところではあります。とかく模試の結果に一喜一憂しがちですが、必ずしも合否と直結するわけではないですから。
とはいえ、外部模試を一切無視する勇気は私にはないですね。また、首都圏模試とサピックス模試だけというのも興味深いです。受験生レベルが最上位層の模試と下位層の模試ですから。中間の受験生が多く受ける、四谷大塚や日能研の模試を受けなくてもいいのかな、と心配になりました。おそらくは、私などよりはるかに経験値の高いベテランの先生ばかりなのでしょう。
知人のお子さんでこの塾から希望校へ進学した方も数人知っていますので、悪い塾ではないのかもしれません。癖のある指導といいましたが、生徒が嵌ればとても充実するのでしょう。ただ、前述のご相談にいらしたお子さんにとっては良い塾であったとはいえなかったと思います。
ただし、このお子さんは、塾には楽しく毎日通っていたそうです。
塾選びって難しいですよね。
大手塾は、ある意味平均的な指導をしますので、大きく外れることは少ないのですが、こうした癖のある小規模塾を選ぶ場合は、親がかなり慎重に見極め、合わないようであれば早期に転塾する勇気が必要だと思います。
塾選びの基本知識については、こちらに書きました。
★このたび本を書きました。
ぜひ読んでほしい本です。