中学受験のプロ peterの日記

中学受験について、プロの視点であれこれ語ります。

地域密着型塾 湘南ゼミナール、臨海セミナー、STEPとは(※2024..10.16加筆修正)

※この記事の初出は20236.11.02です。2024.10.16にUPDATEしました

 

神奈川を地盤とする塾に、臨海セミナー・STEP・湘南ゼミナールがあります。塾の規模からいえば 臨海セミナー > 湘南ゼミナール > STEP の順になります。川崎市横浜市を中心に、それこそ小さな駅にでも必ず教室が展開されています。

しかしながら、この3塾は、高校入試がメインの塾です。

 

STEP

STEPは、中学入試は、公立中高一貫校対策の講座が小5・6で行われているのみで、しかも対象校は県立相模原中等教育学校と県立平塚中等教育学校のみと絞りに絞っていますね。もしこの2校だけの受験を考えているのならよいかもしれません。

教室展開は、本社のある藤沢に18教室、横浜市に53教室、神奈川全体で158教室の展開となっています。

基本は中学生の高校受験のための塾で、優秀層のみ集めた「Hi-STEP」で合格実績を取りに行くというスタイルです。

中学受験をしない、公立中学進学予定の小5・6年生を対象とした算国英の講座も実施しています。国語は普通の国語と「はば広教養」が隔週となっています。

「はば広教養」? 謎の教科ですが、STEPのHPにはこうあります。

 

「はば広教養」は、「楽しみながら、幅広い教養を身につける」ことを目的としたステップのオリジナル授業。

国語的知識や理社内容など、役立つ知識や、視野を広げられる教養を教科横断的に扱い、スライドショーによる映像をフル活用して学びます。

早押し機を使った復習クイズも人気です

教養主義が大好きな私としては、とても興味を惹かれますね。

ただし最後の「早押しクイズ」が全てをぶち壊しています。私の考える「幅の広い教養」を学ぶ姿勢とは真逆のスタイルです。

 

湘南ゼミナール

湘南ゼミナールにも、私立中学受験のコースはありません。あるのは以下の4つです。

〇公立中学進学準備(小4~小6対象)

〇英語力育成(小5~小6対象)

〇国語力育成(小3~小4)

△公立中高一貫校 受検対策

このうち公立中高一貫校対策については、上大岡校・戸塚校・川崎校など、開講校舎が非常に限られているため、もよりの校舎に講座があるかどうかは確認しないといけません。テキストを使わず、教師がホワイトボードを使って質問を投げかける型式の授業です。なるほど、だから開講校舎が少ないのですね。

どこかで一度書こうと思っていたのですが、公立中高一貫校の問題は、思考力・記述力を要する難易度の高いものです。その授業を行う教師にも非常に高いスキルが要求されます。できれば4教科を扱える技量が、文系と理系に分けたとしても、国語・社会あるいは理科・算数の2科目を教える技量が必要なのです。しかも単なる知識を覚えさせる授業ではありません。いかにして生徒の頭脳を刺激していくのか。そんな授業がアドリブでできる教師がそうたくさんいるわけはありません。それで開講校舎が限られるのでしょう。

 

臨海セミナー

臨海セミナーには私立中学受験のコースはあり、合格実績も公表されています。1日校でみると、開成8名、麻布4名、駒東4名、武蔵1名、普通部1名、桜蔭1名、フェリス7名となっています。2月1日に一回しか入試がない学校の合格実績を見ると、その塾の実力がわかります。臨海セミナーの小6の生徒数は公表されていませんので、この数を評価するのは困難ですが、東京・神奈川・千葉・埼玉・大阪に500校以上、中学受験課を設置している教室は80教室のようなので、その全体の合格実績と考えると、難関校には強味があまり感じられません。たとえばサピックスでいえば、小規模校舎1つと同じくらいですね。

臨海セミナーが強味を持つ中学校を調べるため、HPの実績をよく見たのですが、「2023年12月合判模試の合格可能性80%以上の偏差値が62以上の中学校の合格者数となります。」となっていたためわかりませんでした。

掲載されている範囲では、山手学院63名、神大附属47名が最も人数が多かったので、このあたりがメインのターゲットなのでしょうか? ところで山手学院中は、四谷大塚でも日能研でも偏差値50台、サピックスは39の学校ですので、ここが62以上「合判模試」って、首都圏模試しか考えられませんね。

このことから、臨海セミナーは、中受4大塾とは明らかに生徒層が異なることがわかります。それなら素直に通塾生の合格実績をきちんと偏差値下位の学校まで載せてあげればいいのに。「首都圏模試偏差値62以下の学校」は塾の実績にもならないということなのでしょう。そうした学校に頑張って合格して進学した生徒が気の毒です。

公立中高一貫校の実績を見てみると、横浜市立南高校附属70名、サイエンスフロンティア19名、相模原中等教育43名、平塚中等教育21名、川崎高校附属46名となっていました。あきらかに私立よりこちらのほうに強味が見られます。

 

あらためて3塾の神奈川公立中高一貫校の合格者数をまとめてみます。

神奈川公立中高一貫実績

参考までに、日能研サピックスの数字ものせてみました。

見事なまでにすみ分けができていますね。

公立中高一貫校だけを受けるのか、私立も受けるのかによって塾の選び方が変わります。

 

さて、この3つの塾の真価は、高校受験で発揮されます。

それこそ内申の評価をあげるため、地元の公立中学の「〇〇中学校期末試験対策」まで丁寧に行ってくれるようなところに強味があるのです。校舎ごとのHPで、「〇〇中中間試験英語得点15点UP!」といった細かい情報を載せているところもあります。

したがって、この3塾を選ぶのは次のような場合に限られるでしょう。

 

〇公立中学に進学するので、小学生のときから塾に通って中学生になったときに幸先の良いスタートを切りたい。

〇中学受験はしないが、まわりの友人がみな受験塾通いをはじめて遊んでくれなくなったので、自分もどこかの塾に通いたい。

〇神奈川のトップ、翠嵐高校に入りたい。そのための準備を小学生のうちからスタートさせたい。

〇公立中高一貫校だけを受験する。だめなら地元の公立中学に進学予定。

 

また、高校受験の塾は、小規模な校舎を面で展開するような教室展開の戦略をとることが多いですね。学校帰りに寄りやすい場所になければわざわざ電車に乗ってまで塾には来てくれないのだと聞きました。

そう考えると、神奈川在住で、歩いていける範囲にこうした塾があり、中学受験を考えていないのならば、これら3塾は選択肢となりえます。

 

不愉快な話題を一つ。

4年前に週刊誌等でも大きく取り上げられたのでご存じの方も多いでしょう。

ステップを中心とした19もの塾が、臨海セミナーに対して業務改善を公式に申し入れたのです。週刊誌の記事によると、臨海セミナーは強引な生徒集めの手法が目に余ったのだとか。

「・・・自らの塾生である中学生を通じて、成績優秀な同級生などへ模試の案内やアンケートを配布して個人情報をかき集め、その生徒や保護者の同意なしに勧誘に利用する一方、協力した塾生には金券などを渡している・・・」とありました。

また、ステップは2014年にも湘南ゼミナールの合格者のカウント法について訴訟を起こしています。それに対抗して損害賠償請求訴訟を起こされたのじゃなかったかな?

臨海セミナーは臨海セミナーで、全面戦争モードだったと記憶しています。

まったく何をやっているのやら。

 

 実は、こうした話というのは塾の世界では珍しくはありません。名前をあげるわけにはいきませんが、阿漕な集客・合格者水増しを行っている塾はいくつもあります。

 私は思うのです。

 生徒に金券を渡しての個人情報収集は論外としても、塾の実績を良く見せたいというのはやむを得ない面もあるでしょう。でもモラルをなくした塾に「教育」を語る資格はないと思うのです。だからこそ消費者はそれを見抜く力が必要なのですね。

 さらに、こうした「厚化粧で正体をごまかす」ことをする塾は、教育内容がお粗末なのではないかと疑ってしまいます。実力が伴わないからドーピングに頼るのではないでしょうか。

社員も気の毒ですね。「優秀な生徒を外からかき集めろ!」「他塾の合格者を一人でもとりこめ!」と指示されるのですから。そんなことばかりやらされていて、優秀な先生が育つとはとても思えません。

 

私がこの仕事を始めた頃、業界に長いベテランの先生から言われたアドバイスを3つ覚えています。

◆厳しい指導をすべき。それが原因で1名辞めても、その評判で3名入ってくるから。

なるほど、と感心し、実践していました。幸い私の指導の厳しさが原因で辞めた生徒はいないと思うのですが、おかげで「超怖い先生」として名を馳せることになってしまいました。今では前非を悔い改め、柔和な先生となっています。

◆生徒の母親は、母親であると同時に、悩める一人の女性であることを理解すべき。

これもなるほど、と感心しました。その当時は私も生徒の母親よりも若かったため、気が付かなかった視点だったからです。そんな私も今やお母様方の年齢をはるかに上回り、元教え子が生徒の母親として登場することすらありますので、お母様方の悩みがよくわかるようになりました。

◆他塾の動向など気にする暇があったら良い教材づくり・良い授業準備に注力すべき。

もっともです。このアドバイスが一番ためになりました。よその塾がどんなインチキをしようと放っておけばよいのです。

ひたすら目の前の生徒の学力向上のことだけを考える、これが正しい姿勢ですね。