※この記事の初出は2023.10.26です。2024.10.08にUPDATEしました。
enaという塾
enaという塾は、河端 真一氏により1972年に国立学院として創立、1996年にenaの名称となりました。中学受験・高校受験・大学受験等オールラインナップですね。ところで受験生の保護者が見ることの多い掲示板「inter edu」はena(学究社)の子会社です。
この塾が中学受験に本格的に取り組み始めたときの駅張りポスターをかすかに覚えています。たしか、「トップ私塾のトップ講師が集結!」といった勇ましい文言と、「元SAPIX」の肩書付きで講師の顔写真がずらりと並んでいました。私などは、「へえ、国立学院がサピックスの先生を引き抜いて新しい塾を立ち上げたのか。引き抜き料っていくらくらいなのかな?」と下世話な興味しかわきませんでした。のちに知人のサピックスの先生に聞いたところ、「俺はあのポスターに載っていた講師を一人も知らない」とおっしゃってましたね。まあ自称「トップ講師」なんてそんなものでしょう。
公立中高一貫校へシフト
enaは、中学受験においては正直ぱっとしませんでした。合格実績もふるわなかったですね。ところが、ある時期から急に元気が出た印象です。それは、公立中高一貫校対策に力を入れだしたからです。
公立中高一貫校の入試は独特です。公立という建前上、いわゆる「入学試験」が実施できないのですね。あくまでも小学校の学習範囲から逸脱しない範囲で、「適性検査」と称するものを実施します。まあ名前はどうあれ入試には変わりありませんが。
さて、この「適性検査」が独特のスタイルなのです。学校にもよりますが、理科・算数の融合問題と社会・国語の融合問題の2種類を出す場合がほとんどです。
一度ごらんになってみてください。
幸い、ほとんどの学校が入試問題をHPで公表していますので、助かります。
2校ほどリンクを貼っておきます。
学力検査問題等 | 東京都立桜修館中等教育学校 | 東京都立学校
適性検査問題等 | 東京都立小石川中等教育学校 | 東京都立学校
見るとわかるのですが、一般的な算国理社の教科の入試問題とは一線を画していますね。思考力・記述力が問われる入試です。
PISA型入試とは
教育事情に関心のある方ならすぐに気が付かれたことと思いますが、公立中高一貫校の適性検査問題、これは明らかに「PISA型」の問題です。
PISAというのは、OECDが進めている「国際的な学習到達度に関する調査」のことで、Programme for International Student Assessmentの頭文字をとってPISAと呼ばれます。この調査では、15歳を対象に読解リテラシー、数学的リテラシー、科学的リテラシーの三分野について、3年ごとに調査が行なわれていて、前回の2022の調査結果は、もうすぐ、12月に公表予定です。
ところで、この調査では日本の順位はふるいません。数学が1位から大きく順位を下げ(PISAショックとよばれた)、読解も前回は15位です。
この調査内容も公表されていますので見てみるとよいと思います。
下にリンクを貼っておきます。
OECD生徒の学習到達度調査(PISA):国立教育政策研究所 National Institute for Educational Policy Research
さて、「公立中高一貫校対策」という金鉱脈を掘り当てたenaは、息を吹き返しました。今では公立中高一貫校対策に特化したといってもよいくらいの塾となりました。他塾が手をつけなかった市場をうまく獲得した印象です。
もしお子さんが公立中高一貫校のみを志望しているのなら、enaを選ぶのはありですね。しかし、私立(国立)の受験をお考えなら、慎重になるべきでしょう。
合格実績
HPの合格実績にはこのような数字が並んでいました。
都立中 1106名
小石川中 78名
武蔵高附属中 104名
大泉高附属中 128名
三鷹中 109名
白鷗高附属中 108名
立川国際中 107名
富士高附属中 106名
南多摩中 103名
その他国立中高一貫校の実績がのっています。
もう完全に都立中高一貫校に振り切った塾となっているのですね。
ところで国・私立はどうかというと、2024年の実績としては、
武蔵・女子学院・聖光学院・駒場東邦・豊島岡女子・慶應義塾湘南藤沢・渋谷教育幕張・渋谷教育渋谷・桐朋・海城・洗足学園・吉祥女子中 69名
と合わせ技での公表です。
1月校の渋谷幕張、2日校の聖光、さらに洗足や吉祥女子までを全て合わせて69名は正直言って、もはや難関校を狙える塾の数字ではないです。
ちなみにサピックスのHPを見ると、渋谷幕張は383名、聖光は228名となっていました。
ちなみに、2023年は、
筑駒・開成・武蔵・駒東・聖光・豊島岡・慶應藤沢・渋幕・渋渋・早稲田佐賀・海城・桐朋 47名 の学校を合算していました。
このように、年度よって合算する学校を変えられると、合格者が増えているのか減っているのかがわかりづらくて困ります。
そこで、昨年と同じ学校の合格者数を足してみました。
筑駒 0 開成 0 武蔵 1 駒東 2 聖光 2 豊島岡 3 慶應藤沢 10 渋幕 9 渋渋 4 早稲田佐賀 0 海城 6 桐朋 0 合計 37名
なるほど。減っていることがあからさまなので、合算する学校を変更したのでしょう。
海外帰国生の取り込み
この塾は早くから海外への展開にも積極的でした。優秀な海外帰国生を取り込もうという作戦ですね。
(海外の校舎はどこにあったっけな? と思って今ena国際部のHPを調べようとしたら、セキュリティソフトに信頼できないサイトだとしてブロックされて開けません。カスペルスキーが優秀なのか、enaのサイトが怪しいのか? しかたないのでスマホで検索しました)
北米では、ニューヨーク・ニュージャージー・ワシントンDC・シカゴ・ダラス・ヒューストン・デトロイト・サンフランシスコ・サンノゼ・ロサンゼルス・アーバイン・トロント、ヨーロッパではロンドン・デュッセルドルフ・フランクフルト・アムステルダム・ブリュッセルに校舎があります。
さすがに日本人駐在員の多い街はもれなく押さえていますね。
以前、ena海外校の先生に聞いたことがあるのですが、せっかく海外で優秀な生徒を指導しても、日本のenaでは公立中高一貫校対策に特化してしまったため、enaの日本校舎を勧められないと嘆いていました。最難関校を目指す生徒には、仕方ないのでSAPIXを勧めているとか。俄かには信じがたい話ですが、海外の塾では、ライバル塾同士でも何となく横のつながりがあるようですね。しかし、最近は日本にも帰国生の受け入れ校舎が増えてきました。渋谷・茅場町・あざみ野・西船橋・吉祥寺に校舎があります。
私見ですが、enaとしては今後は優秀な帰国生を取り逃がさないためにも、日本国内で難関校対策を強化するのではないでしょうか。
海外においては、住む町に日本の塾が1つでもあればラッキーといった感覚なので、海外のenaの指導力については私にはわかりません。また、海外においては先生を雇うのも一苦労なので、優秀な先生を選ぶ余裕がないとも聞いたことがあります。
最難関私国立中コース「極」
昨年、こんなコースができました。
筑駒・男女御三家・早慶などの最難関私国立中コース「極(きわみ)」
渋谷校・国立校のみ開校で、4年生までの募集です。徐々に学年をあげていくそうです。
総勢2600名の教師陣から選抜されたスター教師が担当するとありました。
去年(2023)はじめてこの広告を見たときには思わず目が点になりました。
「極」! なんとも勇ましいネーミングですね。最近どこかでこのワードを目にしたなあ、と思い返してみたら、先日ネットでおせち料理を頼もうとおもって検索していたときに目にしていたのでした。「京都料亭のおせち、6段重『極」」とか「板前魂『極』」とかですね。まあ塾のネーミングとしてはインパクトだけはあります。
HPを見てみると、ベテラン講師が集結し、少人数制で最難関校の合格を目指す、というコンセプトのようで、これはenaが本気でSAPIXに挑戦状をたたきつけたのでしょうか。あるいは海外帰国生の受け皿を作ろうとしているのか、それとも最難関校受験のノウハウを蓄積するための実験校なのでしょうか。
私が1点だけ気になったのは、「スター教師」の紹介ページです。
「筑駒・麻布・武蔵・駒東・女子学院・雙葉・桐朋中30名の合格実績」
「男女御三家中に40名、他難関私立中に多数の合格者を輩出」
こういった肩書つきで講師が紹介されていました。
実は、私はこのように塾教師が自分の合格実績を誇っているのが好きではありません。塾の教師は裏方にすぎないと思っているからです。あくまでも主役は生徒であり、それを支えるご家族です。
塾の教師はそれを支え、合格に導くお手伝いをしているのに過ぎないと思うのです。まして教師一人は1教科を教えているだけです。この実績は、「生徒のがんばり」+「家族の支援」+「塾のシステム」で出したものですよね。
まあ心の中で「今回の〇〇中の合格は俺の指導のおかげだな」と自負するのは構わないとして、それを声に出すのは「いとわろし」だと思います。100歩譲って実績を誇っていいのは、塾に通っていない生徒の4教科を指導して合格に導いた家庭教師の場合だけです。
さらに意地の悪いことを言うと、御三家中40名って少ないですね。仮に20年の指導経験があるとして、年間2名ずつですか。
少々辛口なことを書いてしまいましたが、こうした「スペシャル感」に惹かれるご家庭もあるでしょうし、enaとしても力を入れるでしょうから、数年後の実績には期待できるかもしれませんね。