※この記事の初出は2023.9.26です。2024.9.26、2025.07.01に加筆修正し、再UPしました。
受験学年の6年生ともなると、多くの塾では実践的な模試を実施するようになります。
「〇〇合格判定模試」
「〇〇判定テスト」
「〇〇中学オープン」
などといった名称の公開模試が多く実施されています。
日能研の全国模試、四谷大塚の合不合判定テスト、SAPIXのサピックスオープン。いわゆる三大塾の模試が次々と押し寄せてくるようになってきます。
結果にショックを受けている方も多いと思います。
第一志望校の合格可能性が20%!
目の前が真っ暗になる思いですね。
頑張り続ければ成果は必ずともないます。たしか塾の先生はそう言っていたはず。
いったいいつになったら成果がでるのか?
今回の記事は、私からの実践的なアドバイスです。
そもそもその模試(テスト)は何を目的としているのか?
模試を実施する側、つまり塾サイドから考えてみると、模試の作成・実施運営・採点処理・データ化にまでは膨大なコストがかかっています。
たぶん模試代金数千円程度では赤字なのではないでしょうか。
そうまでして塾が模試をなぜ行うのか。
そう考えると、模試は、その目的別に、以下の2種類に分けられます。
- ①優秀な生徒を獲得するために、生徒の個人情報(氏名・住所・成績・志望校等)を取得するのが目的のテスト
- ②生徒の立ち位置や志望校の合格判定を目的としたテスト
もちろん、これらの目的がミックスされているのが普通です。
とくに要注意なのが、①を主目的としたテストです。見分け方は非常に簡単で、これらのテストのほぼ全てが無料です。
そして、成績優秀な生徒のところには必ず勧誘電話がかかってきます。
多大なコストがかかるテストを無料にしているのは何故なのか、その理由をちょっと考えればわかることですね。
私が基本的に無料テストを推奨しない理由がそこにあります。
お子さんの立ち位置や志望校の合否判定を見たいのなら、きちんと対価を支払ってテストを受けるべきだと思います。
※テストの種類の詳細はこちらの記事に書きました。
普段どちらかの塾にお通いの場合は、内部の生徒だけを対象としたクラス分けテストのようなテストを定期的に受けていると思います。それに加えて、外部にも公開した②のテストがあります。
つまり、成績を出しそれにもとづきクラス分けを行うようなテスト、それから志望校判定を行うテストです。
テストである以上、結果を気にするのは当然ですし、それによって塾のクラスが変わることはとても気になると思います。
しかし、こんなケースもあるのです。
ある大手塾の先生が嘆いていました。模試の結果によっていつものようにクラスを分けたところ、ある一人の生徒が2・3点足りずにクラスが下に落ちてしまったのです。
すると、その生徒の父親から、「なぜうちの子を落とした!」というクレームが入ったそうです。
「最近、そんな親ばっかりですよ。」と嘆いていらっしゃいました。
クレームによって点数が変わるのなら、それはもはやテストとは呼べません。クレームによってクラスが上がるのなら、そんなクラス分けには何の意味もありません。このお父様は、自分の子どもが受験に失敗したら、学校にクレームを入れるのでしょうか。(なんだか本当にクレームを入れそうで怖い)
「たった2・3点でもクラスが落ちた。ケアレスミスがなければそんなことにはならなかったことがわかっただろ。反省して今度のテストは真剣に臨みなさい。」
という反省材料にすべきでしたね。
模試を受ける意義とは?
どうしてもテストを受けると、志望校の合格判定が気になりますね。しかし、本来模試を受ける意味はそこにはありません。
- ◆時間内に問題を処理するトレーニング
- ◆テストというものに慣れる
- ◆弱点を把握する
以上3点が模試を受ける意義なのです。
(1)スピード感を身に着ける
子どもによって、問題の処理スピードは大きく異なります。全く同じように指導をしてきた生徒に、全く同じ問題を解かせても、制限時間を大きく余らせる生徒もいる一方。制限時間に半分も解くことのできない生徒もいるのです。イメージとしては、100m走を、8秒で走り抜ける生徒と30秒以上かかる生徒が同じ教室に座っているようなものですね。この遅い生徒達の問題を解く様子をじっくり観察すると以下のようなことがわかります。
〇問題に取りかかるまでが遅い
なんでしょうね。「始め!」の合図がかかってから、ゆっくりと筆箱から鉛筆をとり出し、問題を読み始めたと思ったら、今度は使いもしない消しゴムをしじみじと眺めていたりする、そういう生徒がいるのです。良くいえば「大物」ですが、どう考えても時間内に解き終わることはできません。いちどお子さんの勉強にとりかかる様子を観察してみてください。「家ではこんな調子でも、テストになればちゃんとやるに違いない」というのはただの誤解・希望的観測にすぎません。家でそういう調子の子は、テスト会場でも同じです。
〇問題文を読むのが遅い
国語はもちろん、理科であれ社会であれ、問題文を読まないと解くことはできません。しかし、あまりにも丁寧に何度も何度も問題文を読んでいると、それだけで試験時間は終わってしまいます。
学校によっては、麻布のように社会科なのに6000字を超える文章を読ませてから記述させるような学校もあるのです。
おそらく読むのが遅い生徒は、自分自身が納得いくまで読解しないと先へ進めないタイプなのでしょう。
勉強の姿勢としては悪くないのですが、限られた試験時間の中で最大の成果をあげることを考えると、マイナスでしかありません。
〇どう答えを書くべきかわからない
問題を把握し、答えもなんとなくわかっているのです。しかし、どう答えればよいのかがわからない。解答用紙の1㎝でペン先が空中停止している生徒たちです。
この生徒達が一番多いと思います。
〇字を書くのが遅い
字を書くのに丁寧に書くのはすばらしいことです。しかし、テストではある程度の丁寧さは犠牲にしても素早く升目を埋める能力が要求されます。しかも最近のテストは記述問題が増えています。あまりにゆっくり丁寧に書いていたのでは間に合わないのです。
※ここでシャーペンの芯の交換をはじめる生徒までいます。筆圧で芯が折れたのですね。時間の無駄以外の何物でもありません。私がシャーペンを推奨しない理由はそこにあります。本番の入試では、おそらく鉛筆に限定されるはずです。普段から鉛筆を使う習慣をつけておくべきでしょう。
もしどうしてもシャーペンを使いたいのなら、せめて芯の太さを0.7㎜か0.9㎜のものにしてください。
※字とシャーペンの関係についてはこちらで書いています。
〇解答に迷う
せっかく書いた答案を何度も何度も消しゴムで消す生徒がいます。おそらくは自分の書いた答に自信がもてないのでしょうね。
長文記述など、全部消して書き直していたら、確実に時間切れとなります。
〇問題を解く要領が悪い
そうした生徒は、例外なく、大問1の小問1から解き始めます。そして、途中でわからない問題が出てくると、そこで止まります。
あるいは、社会科の歴史問題でよく見かける光景にこんなものがあります。
数行の歴史説明の短文が10個ほど並んでいるのですね。時系列はバラバラです。そしてその短文のところどころに空欄があったり、下線が引かれていたりして、いくつもの小問が組み立てられています。最後の問には、その短文10個の並べ替え問題があるのです。
ほとんどの生徒が、最後になるまで、並べ替え問題があることに気づきません。最後の問に行きついて、はじめて、「あっ、並べ替えだ。」と気が付くのです。そして、また最初の短文に戻って、読み直し始めるのですね。全ての短文を読み、一番古いものを1つ選び、短文の記号に斜線を引きます。そして二番目に古いものを探すために、また短文を全て読み直すのです。そうして見つかったら斜線を引く。さらに・・・・。
こうして10個の短文を、何度も読み直すのです。
これでは時間がかかるのは当たり前です。
こうした問題の解き方はこうです。
①小問を解きながら、短文の横に歴史年代・時代等をメモしておく。(このメモはこの問題を解くのには不要ですが、頭を整理して間違えを減らすのには役立ちます。)
②最後の並べ替えの問にたどり着いたときには、すべての短文の横に年代が書かれています。その年代をみながら、一発で並べ替えが完了します。
このように解けば、短文を読むのは1回だけで済むのです。
こうした生徒達は、とにかく問題演習を多く積むことで、時間内に終わらせる「スピード感」を身につけなくてはいけません。それに最も効果的なのが「模擬試験」なのです。
(2)テストに慣れる
テストには、特有の「約束事」があります。漢字指定・ひらがな指定・複数回答・記号選択・正誤問題、そして算数なら式の書き方。国語でも文字数の数え方(解答欄の使い方)が作文とは異なります。
テストを多く受けることで身に着く「テスト慣れ」は入試に向かって必要なスキルです。入試は1回勝負ですから、予行演習は欠かせません。そこで、6年生にもなると、何度も模試を受けることで、一定の時間で問題を解く練習を積むのです。また、模試といえどもテストの緊張感は独特です。それに慣れるという効果も大きいですね。
(3)弱点を把握する
テストを受ける最大の目的は、自分の弱点を把握することにあります。例えば算数が得意だと思っていたら、つまらない計算ミスばかりして得点を落とす、そんなケースもあるでしょう。社会科が得意なつもりでいたのに、歴史年代の暗記に穴がある、そんなケースもあるかもしれません。国語についても、長文読解は得意のはずだったのに、韻文が壊滅的であるかもしれませんね。こうした欠点を明らかにするのが模試の最大の目的なのです。
弱点が把握できたら、その穴埋めの方法を考えていきます。
そのためには、模試を受験してから見直しをするまでのタイムラグは小さければ小さいほど効果的です。
理想をいえば、テストを受けたその直後に解説&間違い直しが行われるのが良いのです。私が自分の指導でテストを解かせる場合には、大問ごとに区切って解かせ、すぐに解説指導を行います。大問1の解説は、大問2を受けたあとよりも、大問1の直後のほうが良いのです。今解き終わったばかり、そうしたタイミングが理想的です。
さすがに塾の模試を受験する場合にはそうはいきませんので、せめて午前中に試験を受験したのなら、午後には間違い直しに着手しましょう。
塾からの成績表等が返却される1週間以上後になってからでは、正直言って遅すぎます。
くれぐれも模試の結果に一喜一憂することなく、着実に模試を利用していってほしいと思います。
模試の結果は気にするな!
これがアドバイスです。理由を説明しましょう。
(1)模試と入試の受験者層が異なる
たとえば開成を目指す生徒なら、サピックスオープンを受けなければいけません。
開成に最も多くの合格者を出しているのがサピックスだからです。
他の塾ではそこまでの合格者がいませんので、過去の合格者・不合格者の成績に基づいたデータが出せないのです。
また、逆に、中堅校を志望するなら、それらの学校の合格者数が最も多い塾の模試を受ける必要がありますね。
しかし、すべての受験校について、適正な受験者層の模試など存在しません。しかも「〇〇中学オープン」といったターゲットを絞りすぎた模試は受験者数が少なすぎるために判定精度が著しく下がります。
塾によっては、筑駒への合格者数が皆無なのにもかかわらず「筑駒中判定模試」のようなものを設定しているからあきれてしまいます。目的は優秀層の取り込み、ただ1つです。
受験者数が多い模試は実際の入試の受験者層を反映せず、実際の入試の受験者層を反映させる模試は判定精度が低い、そういう矛盾を内包しているのが「模試」の宿命なのです。
経験から言うと、あまりにその学校のスタイルに特化したテストよりも、一般的な学力を総合的に図るテストのほうが、生徒の実力を掴みやすいと思っています。そのうえで、過去問題の出来具合を詳細に検討していくほうが生徒の合否を予想しやすいと思います。
(2)模試の問題がよくない
最近、とある塾の模試の問題を見ていて気がつきました。
異常に難しいのです。
いくら難関校を目指す生徒のほとんどが受験する模試といえども難しすぎます。
あきらかに実際の本番入試問題よりも難易度が高くなっています。
こんな問題、解けなくてかまわない! むしろ解ける必要はない!
プロの目から見て、あきらかに問題の質が受験生にふさわしくないのですね。
案の定、平均点は相当低くでていました。
模試の平均点は、得点の55~60%程度を目標に作成します。
平均点が40%を下回るようなテストは、あきらかに「作問に失敗した」テストですね。
こんなテストでは、正確な判定は出ないはずです。
また、毎週末のテストを主軸とした老舗塾の模試も曲者です。この塾の判定模試は数十年前から合否判定のスタンダードとされていたのですが。
見てみると、日ごろこの塾のテストを受験していた生徒が明らかに有利になるように作られています。これでは、その塾に通っている生徒にとっても、外部から受ける生徒にとっても、良いことは1つもありません。
また、思考力系・記述力の問題は、テストによってほんとうに玉石混交です。
受験生のレベルを考慮しながら、また学習段階を考慮しながら、思考力を要求する問題や記述問題を作成するのは本当に難しいのです。
経験年数を重ねればできるようになるというものでもありません。もともと持っていたセンスのような要素が問われるのです。
そんな教師、センスもあり経験も豊富な教師など、どの塾にも数えるほどしかいません。
模試のクオリティが必ずしも高くないというのには、そんな理由もあるのです。
そこで、複数の塾の模試を受けてみる、というのも一つの方法です。1つの塾の模試だけでは、なかなかお子さんの実力を測るのは難しいと思うのです。
※ただし、毎回違う塾の模試を受けるのはお勧めしません。あくまでも、たまに他塾の模試を受けてみる、そんな程度で十分です。
模試はあくまでも現時点のお子さんの立ち位置と弱点を把握するためのものです。
その結果に一喜一憂することには意味がありません。
模試の結果が素晴らしくても、入試本番での成功が約束されるわけでもありませんし、その逆もいえますね。
テストを受けたら、間違い直しを徹底的に行い、弱点を把握して前に進む、ただそれだけが有効な模試の活用法となります。
一部の小規模塾では、生徒には外部模試を受けさせない方針のところがあると聞きました。
何と無謀な!
最初はそう思ったのですが、よく考えてみると、これはこれで優れた方針であるのかもしれません。
判定精度があてにならない模試の結果で受験生の家庭が惑うことを避ける目的なのでしょう。
しかし、このスタイルが成立するためには、生徒の日ごろの出来具合を見て合否を予想できるレベルの「超ベテラン教師」が何人もいることと、親が塾の教師に万全の信頼を置くことが前提です。非現実的だと思います。
模試はあくまでも「弱点把握」と「立ち位置の目安」程度と考え、振り回されるのではなく利用することが大切ですね。
※中学入試の入門書を上梓しました。模試や偏差値の考え方も詳細に説明していますので、ぜひお読みください。